※写真はイメージです(getty Images)
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「希望通りに就職したはずなのに、人生のどん底を見た」

 石田広樹さん(仮名、29歳)は職を失い、一時はニート状態に陥った。しっかり狙いを定めて就職活動をし、希望した会社に就職したとしても、順風満帆にいくとは限らない。40歳前後の就職氷河期世代が抱える「中年フリーター」問題は、若者にとっても決して他人事ではない。

 冬には雪深くなる地方で生まれ育った広樹さんは、高校卒業後は東京の中堅大学に進学した。親からの仕送りは家賃の5万円だけ。奨学金を月5万円借り、残りの生活費は居酒屋でアルバイトをして賄った。

「4年も東京に出してもらえたら満足。親孝行するため地元に戻って就職しよう」と、Uターン就職を考えた。大学2年生の終わりから“就活モード”に入り、3年生の8月からは就活が始まった。夏休みを利用して故郷で開催される企業の就職説明会に参加した。「地元にも、こんな面白い会社がある」と知ると、意気揚々とした。秋頃から冬休みにかけては本格的な合同説明会が始まった。

 2011年2月、大学の期末試験が終わるといよいよ就職活動は本格化。手帳を開けば、3月は毎日、会社説明会の予定で埋まった。説明会に参加しなければ、その後の試験につながらない。目いっぱいの予定を組み、親の車を借りて移動して企業回りをした。空いた時間にスーパーで弁当を買って車の中で食べて時間をつぶすのも、「まるで営業職みたいだ」と、楽しんだ。

 業界研究をしている時期、周囲は金融業界への就職を目指したがった。けれど、高校を卒業してすぐに銀行で働いた女性の友人は、結婚すると契約社員に変更された。働きやすさを売りにしている会社だったが、ノルマがきつく社員は使い捨てに見えた。“ブラック企業”は避けたいと、情報収集を欠かさなかった。

 氷河期を脱しつつある頃の就職活動。大卒就職率は2003年の55.1%という過去最低値から徐々に回復。2008年は69.9%まで上昇したがリーマンショックで再び落ち込み、2010年に反転。広樹さんが卒業した12年は再び大卒就職率が上向く最中で63.9%となり、売り手市場に変わりつつあった(文部科学省「学校基本調査 卒業者に占める就職者の割合」)。

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小林美希

小林美希

小林美希(こばやし・みき)/1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年からフリーのジャーナリスト。13年、「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。近著に『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書)、『ルポ 保育格差』(岩波新書)

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