それにもかかわらず、3府県に抽出調査を認めるとしたのはなぜかと言えば、これらの府県でも、実際には、大規模事業所調査でかなりの調査漏れが生じていたからだと考えた方が良いだろう。もし、全数調査が行われていたのに、わざわざそれを抽出調査にするというのは、役人としてはハードルが高すぎる。自分の責任で法律違反を行うというリスクを負うからである。

 一方、元々調査漏れが多く、事実上の法律違反の状況になっていたのであれば、その実態を追認するだけだから、心理的ハードルはかなり下がる。例えば、実際には4分の1しか回答が得られなくなっていたのに、それが放置されていたような場合、抽出調査にするから、何とか半分の事業所の調査を実施してくれと府県に頼むということであれば、以前よりも事態は改善する。さらに、過去には抽出調査とされていなかったので補正もできなかったが、抽出調査と正式に決めれば、補正も実施できて、統計の精度は上がるから、その意味でも前進だ。したがって、この通知を出した担当管理職は、事態を改善しようと考えていたと主張するだろう。

 しかし、これは大きな問題になる。3府県で抽出調査に切り替えざるを得ないくらい調査漏れがあったのだとすれば、ここでも、賃金の統計が実態よりも低くなっていたということになるからだ。現時点では東京都の分だけで保険給付金が過少だったという話になっているが、3府県の分を入れると、もっと給付額が増えるということになる。さらに、3府県以外でも程度は小さくてもやはり、調査漏れがかなりあるとすれば、その分の統計の上方修正が必要となり、さらに過少給付額は拡大する。東京都以外の大規模事業所は4500程度あると見られるから、もしかすると今わかっているのと同規模かそれ以上の過少給付につながる可能性もある。

 そうなれば、再度の予算案の修正が必要になるということになり、国民の怒りはさらに高まり、国会でも大問題となるだろう。

 第3の視点、「省庁」についてはどうか。厚労省は、昨年来、いくつものデータ不祥事を起こしているので、厚労省という特にダメな役所だからこんな問題が起きたという印象が広まっているかもしれない。

 しかし、似たような事例は他にもたくさんあるはずだ。

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