「以前はトリプルアクセルを跳ぶことで他の選手よりミスが多くなったりしていたので、それで自信を無くして自分は弱いのかなという風に思うようにもなっていた。そこでトリプルアクセルという大技をしないという判断もあったけど、何度も失敗を重ねていく中で氷の状態も絶対に大事だし、調子も絶対にいい状態に持っていかなければ試合では決められないと思ったので。そういう経験や、氷への合わせ方もうまくできるようになったことで確率もすごく上がってきたと思います」

 今季GPシリーズ初戦となったNHK杯は観客も多くて注目度も高い、これまでの紀平だったら苦手とする部類のプレッシャーのかかる大会だった。だが、SPでの失敗をしっかり分析し、フリーではそれを克服。トリプルアクセル2本を完璧に決め、合計を224.31点にして優勝したことで自信はさらに大きくなった。

 小5の終わりから指導を受ける濱田美栄コーチが「最初に来た頃はダブルしか跳べていなかったが、絶対にトリプルも跳べると思っていた」と認める身体能力の高さに加え、今季は気持ちの弱さも克服した。さらにGPシリーズ第2戦のフランス国際では、SPのトリプルアクセルでパンクし、フリーも最初のジャンプで回転不足になると、自分の体の状態を考えて次の構成を2A+3Tにするなど対応力まで付いている。そういった成長が今回、初挑戦でのGPファイナル制覇という快挙にもつながったのだ。

 それに加えて、大きな変化もあった。ジュニアの頃は各項目ともに7点台だった演技構成点が、シニア最初の試合のオンドレイネペラ杯のフリーでトランジションが7.90点、それ以外は8点台前半まで上がっていたのだ。GPファイナルのフリーではさらに、最初のトリプルアクセルがダウングレードになるミスをしながらもトランジションが8.86点、他は9点台まで上がり、平昌五輪女王のアリーナ・ザギトワ(ロシア)に肉薄するまでになった。

 これからの紀平の課題は、武器であるトリプルアクセルの精度をさらに上げていくこと。たとえ、トリプルアクセルをミスしても、ジャッジに世界のトップレベルの演技構成点を出してもらえるまでになった点は評価に値する。それはジャンプだけではなく、スケーティングや表現などの成長も認められているという証拠であり、彼女が本物になったということの証明でもある。(文・折山淑美)