大相撲の横綱稀勢の里(32)が16日、引退を発表した。

 同日に都内で開いた記者会見では、声を震わせながら「横綱として皆さんの期待にはそえなかったが、私の土俵人生において、一片の悔いもございません」と、涙を流しながら現在の心境を語った。

 稀勢の里が今場所にかける思いは、凄まじいものがあったという。ある親方は言う。

「場所前に、目が真っ赤な稀勢の里を見たことがあった。目の調子でも悪いのかと思って稀勢の里に近い人間に聞いたら、毎日、深夜までビデオを見続けていると言っていた。今場所で当たりそうな相手を必死で研究していたようだ」

 しかし、背水の陣で挑んだ初場所は初日から3連敗。昨年9月の秋場所から8連敗(不戦敗を除く)という横綱のワースト記録を作ってしまった。

「初場所前の稽古では、上位力士と対戦して感触がよかったのではないか。だが、初場所は仕上がりが難しいので、思うように相撲が取れなかった。稽古と本場所は違う」(前出の親方)

 場所前には、大事を取って初場所も休み、春場所にかけたほうがいいのではという考えも関係者であったという。それでも、稀勢の里を責める声は聞こえてこない。

「横綱になって初めての17年春場所で、満身創痍の中で優勝。感動で涙が出たよ。とても相撲がとれるような状態ではなかった。あそこで燃え尽きてしまったのかな……。大関時代の成績をみれば、歴代大関で最強ともいえる数字を残している。そんな男が、ずっと横綱の務めに悩んでいた。それほど責任感が強い男です」(同)

 稀勢の里が横綱で昇進するまでの15年間で、休場は1日しかなかった。それほど、17年初場所の綱取り場所で負った左腕などのケガの代償は大きかった。春場所で感動の優勝を遂げた後、同年夏場所から8場所連続休場(途中休場含む)。会見でもそのことが頭によぎったのだろう。「大関と横綱はまったく違うものでした。まだまだ先代が見ていた景色は見られなかったです」と話した。

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