2012年の全豪OPで対戦した錦織圭(左)とアンディ・マリー(右)(写真:getty images)
2012年の全豪OPで対戦した錦織圭(左)とアンディ・マリー(右)(写真:getty images)

 2019年最初のグランドスラムは、アンディ・マリーの引退示唆発言による、哀切に満ちた喧騒のなかで開幕の時を迎える。

 2017年のウインブルドン以降、臀部の痛みを理由に戦線離脱していたマリーは、手術を経て昨年6月に復帰するも、以降わずか7大会にしか出場していなかった。

 そして、全豪開幕を3日後に控えた1月11日。マリーは、「患部の痛みが依然消えない」こと、そして「ウィンブルドンまで戦いたいが、もしかしたら、この全豪が最後の大会になるかもしれない」ことを、涙ながらに語った。

 このニュースを錦織は、「まだ受け止められていない」という。

「若い頃からたくさん試合をして学んだことも多かったし、盗んだことも正直あった。まだまだ対戦するごとに学ぶことは凄くあったので、もうちょっとやりたかったなというのは正直あります」。

 11度の対戦を重ね、2度の歓喜と9度の学び多き敗戦を喫したマリーの引退に、錦織は哀切の情を向けた。

 錦織がマリーを「お手本」としていたことは、過去の幾つもの発言が証明する。ラリーを重ねながら自分の型に相手を誘い込み、無理なくポイントを奪っていくマリーの知性を、かつて錦織は「Genius(=天才)」と評した。

 あるいは、過酷な連戦を勝ち切るその体力に、「信じられない」と驚嘆の言葉を漏らしたこともある。マリーとは錦織にとり、対戦するたびに自分に足りないものを突きつけられ、同時に、進むべき道を示してくれた存在だったのだろう。

 錦織がマリーの強さを肌身で感じ、両者の距離を体感として測ったのが、2012年の全豪オープンだった。この大会で錦織は、初めてグランドスラムでベスト8に進出。そこに至る道のりで2つのフルセットを戦い抜き、たどり着いた準々決勝のマリー戦では、「大会開始時を100とするなら、30~40の体力」だったと明かした。

 対するマリーは、そこまで体力を温存しつつ勝ち上がり、錦織戦では心技体全てで相手を組み伏せる。グランドスラムで勝ち上がるには、序盤戦では余力を残し勝ち上がる必要があること、そして2週目でプレーの質を引き上げるだけの燃料タンクが必要であることを、錦織はマリー戦から学んでいた。

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全豪“ベスト8の壁”突破なるか