それから1年――。彼女はBNPパリバオープン優勝者であり、全米オープン覇者であり、そして世界の4位としてメルボルンに帰ってきた。今や彼女は紛れもない優勝候補の一人であり、米国の著名誌『タイム』の表紙を飾る時の人であり、街を彩る大会ポスターや看板には、その姿が踊る人気選手だ。ファンからはかつてない視線が注がれ、他の選手たちからは、警戒と対抗心を向けられるのは間違いない。

 ドローに目を向ければ、3回戦で元1位のビクトリア・アザレンカと当たる可能性などが取りざたされるが、彼女が戦うべき相手は、手垢のついた言い回しではあるが、自分自身になるだろう。今季の開幕戦となるブリスベン国際での大坂は、準決勝で自分への苛立ちを抑えきれず、ラケットを投げるなどして内側から崩れた。

 その後大坂は、SNSに「酷い態度をコート上でとってしまいました。試合を観ていた全ての方に申し訳なく思います。私はいつも、もっと大人にならなくてはいけないと自分に言い聞かせてますが、どうやらまだ時間が掛かりそうです」と綴る。日々高まる雑音やプレッシャーを遮断し、いかにコート上で自分を律するか――? それが今季の彼女を占う上での、最大の命題になることは間違いない。
 
 開放的ながら熱狂的で、牧歌的ながら都会特有の喧騒と疾走感を兼備するメルボルンは、シャイながら豪胆な大坂が、明るく前向きでいられる街なのかもしれない。1年前に、この大会で見せた「ポジティブな姿勢」を取り戻せれば、彼女はまた一つ、新たな景色をその双眸に映すはずだ。(文・内田暁)