アマチュアは別です。全国には、社会人劇団と呼ばれる、働きながら演劇を続けている人達がたくさんいます。50代になって初めて舞台に立つ人、定年退職して初めて演技を始める人。それはとても素晴らしいことです。僕はそういう人を心から応援します。

 が、それとプロの職業俳優になれるかどうかは別です。

 ですから、30歳で演技経験がなく初めてオーディションを受けに来た人に対して、僕は内心、「どうしてもっと早くオーディションを受けなかったんですか」と溜め息をつきます。もちろん、口には出しません。そんなことを言ってもしかたないですから。

 そして同時に思うのです。

「俳優になりたい」という思いは強烈なんだなあ。どんなに親が反対しても、その思いはずっと心の奥深くで燃え続けているんだなあ。

 もっとも、その強さの半分は、親が作ったと言っていいと思います。よく言われるように、私達は、やったことより、やらなかったことを強く後悔します。彼女達が、親に反対されず、ほんの数年、俳優を目指し、そしてその可能性の低さに驚き、怯え、諦めれば、俳優への思いはあっさりと消えていったかもしれません。

 でも、親はそのトライアルの可能性さえ、潰したのです。だからこそ、心の奥底で俳優への思いが燃え続けたのです。

 ちょうど、恋愛を禁止するからこそ、燃え上がる関係と同じですね。反対せず、成り行きにまかせてみれば、子供は相手に呆れ、見限り、半年ぐらいで恋愛を終わらせていたかもしれません。

 そうは言っても、俳優の夢を諦めず、人生を棒に振ったらどうするんだと、エイ助さんのように多くの親は心配するのでしょう。

 でもね、子供と言っても20歳を過ぎた大人です。バカではないのです。

 僕が演劇を始めた時代は、バイトをしながら俳優を続けていた先輩達は、35歳になってもプロになれなかったら、俳優の夢を諦めました。

 そして、まっとうな社会人として就職しました。

次のページ
ほとんどの人が俳優を諦めたきっかけは…