トウチャンが死んでしまって、まず生きる意欲と食欲が消えて、最初の1ヶ月で5キロくらいすーっと体重が落ちた。このペースで行けば、19年前の体重に戻れるかも、と一瞬期待したが、その後、「誰かとご飯してないと寂しくて死んじゃう病」が発症し、毎晩会食続き。やはりそううまくは20キロもの体重を落とすことはできなかった。

 とはいえ、もう夜食のラーメンも、山盛りのどんぶり飯も、差し出すひとがいなくなったわけだから、ダイエットチャンスがあるとしたら今しかない、と思い、いろんなガタが来ているので、この機会に、と漢方に頼ることにした。長い付き合いで健康と若々しさを絵に描いたような作家の群ようこさんが絶賛する漢方医を紹介してもらい、私の体質にあわせて処方してくれたものの中に、なんと、「ゴキブリ」の粉末を丸めたものがあった。からだの老廃物を排出するのに効くのだというし、群さんも飲んでいたらしい。

 その話をデートの時にしたら、アニキが「ゆかりちゃん、ゴキブリ飲んでるの?ゴキブリって、あのゴキブリだよね?」とドン引きしていた。いや違うって。生前の写真を先生に見せてもらったら鈴虫似のイケてるゴキブリだったよぉ。

 そして、私はもっとつわものを知っている。知人のフリーアナウンサーの美女だが、アトピーを気にしている彼女が飲んでいるのは、なんと「ウンコ」。「腸内フローラを検査して自分に足りない菌を特定し、その菌を持っている方の大便をカプセルで飲むんです。ダイエットにも効くんですよ。中瀬さんもやりませんか」と勧められているからやろうかな、とさらに話すと「ゴキブリ飲んでいる上にウンコまで飲むんかいーーーっ!エグすぎるやろ。やめてくれーーーっ!」とアニキに激しく反対され、ロマンス消滅の危機を感じ、断腸の思いでウンコ飲み断念。たしかにこれで成功しても、あまり羨ましがられないだろう……。そもそも、誰のウンコかもしれぬものを飲むのは抵抗がある。ガリガリでシワシワの汚いおっさんから採取されたものかもしれないし、これはダイエットの名を借りた黄金プレイだ。

 というわけで、現在ゴキブリだけは変わらず飲み続けて1年になる。体重は増減なしだが、体調がすこぶるいいのはこのゴキブリ健康法のおかげだと信じているのだ。ちょっとお高めだけど、ゴキブリの頭も信心、ってやつよね。

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中瀬ゆかり

中瀬ゆかり

中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、 作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに。

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