さらに、同シンポジウムに登壇した東京大学都市工学専攻の中島直人准教授は、「各分野の専門家が働きたくなる仕組みも富山市ではうまく作り出せている」と評価する。

 一方、東京大学都市デザイン研究室の永野真義助教はこう語る。

「ライフスタイルの多様性を担保する進め方も、富山市が成功した理由だったのではないか。例えば環境保全のために自動車を使うなと直言するのではなく、公共交通整備をすることでその状況を徐々に市民に受け入れられるようにするなど、痛みを伴わない、やりすぎない手法も富山市の魅力と言える」(永野助教)

 なぜ、北陸の小都市である富山市が、専門家も評価するような先進的な取り組みを行えているのだろうか。

 登壇者のひとりであるコンサルタントの笹谷秀光氏は「富山市はSDGsを意識してまちづくりをしてきたのではなく、20年前、30年前から長期にわたって取り組んで花開かせた現在の姿が、SDGsの理念にぴったりと当てはまった」と分析する。

「富山市では従来の縦割り的な政策や施策のように、会議の内容を持ちかえって検討するのではなく、その場で連絡を入れるなどのフットワークの軽さがある。こうした姿勢は他都市の参考になるかと思う」(深谷氏)

 一方、課題はPR不足。これだけの取り組みをしていても国内であまり知られておらず、より広く理解されるよう発信していく必要があると深谷氏は苦言を呈する。

 昨年、29の都市がSDGs未来都市に選定され、うち10都市(富山市を含む)がSDGsモデル事業に選ばれた。政府は、選定都市の成功事例を国内外に発信し、普及啓発することで、持続可能なまちづくりを広げていくとしている。SDGsについて「リーダーシップを発揮し、日本の姿を国際社会に示す」と語った安倍首相だが、果たしてどうなるであろうか。