偶然にも友だちと会うことを期待しながら、ブラブラと地元をふらつきました。あてもなく時間を潰していると、思い出すのは家にも学校にも居られず公園で時間を潰した小学生時代……。季節は1月半ば、体が芯まで冷えて帰宅しました。

 当時をふり返ってAさんは「成人式に行って後悔はしたけど、気持ちは吹っ切れた」と言います。地元への愛情、子ども時代の楽しかった思い出、かわいかった同級生、それとは、おさらばして東京へ出てきた自分の道のりは「まちがいではなかった」と思えたからです。

■2つのアドバイスとは?

 Aさんほどではなくても、成人式はドラマがいっぱいです。晴れ着の写真だけでもと親に頼まれたが当日、両目にものもらいができた話。式典で誰とも打ち解けられず一人でカラオケに行った話。友だちと式を欠席し、アニメの聖地巡礼をした話。バカ騒ぎをしている同級生に興ざめした話や、いっしょに騒いで友だちが7人も補導されたという話もありました。

 本当に悲喜こもごものドラマがあります。

 成人式にはたくさんの同世代と出会うため、コンプレックスや負の記憶とも対峙することになります。しかし、不登校の人でも「全員、成人式は欠席する」というわけではありません。むしろ「絶対に行きたくない」という人は私の体感上、少数派でした。

 というのも、成人式を直前に控えると「一生に一度だし」「親も喜ぶから」などの理由から、「行ってみたい気持ち」と「行きたくない気持ち」が同居します。つまり揺れ、迷うのです。親も自分も、期待が膨らむのも事実です。

 成人式の出欠をどちらにするか、周囲から見れば「好きにすればいい」「悩む必要はない」と思うかもしれません。しかし、私はたくさんの人の話を聞いてきて伝えたいと思うことがふたつあります。

 ひとつ目は「親も含めて外野は黙っていよう」ということ。もうひとつは「悩んでいることはまちがいじゃない」ということです。

 悩んでいると悩む自分が嫌になってきます。でも、悩ましいときは本人が悩むしかないんです。悩まないようにと無理をすれば苦しくなるばかりです。どんなときも、そのままの自分でいるしかないと、お釈迦さんも言っていたそうです。迷いながら当日の朝を迎えたっていいはずです。

 若者を葛藤の渦へと巻きこむ成人式。外野の私は黙って、迷いながら決断する本人にエールを送りたいと思っています。(文/石井志昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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