メガソーラー発電所での農作業は、現地の農業生産法人に委託している。年間約200万円の委託料が売電収入から支払われ、収穫した作物の売り上げは全て農業生産法人のものとなる。このように農作物以外の収入源ができることは、農家の経営安定に貢献する。例えば農業未経験者がIターンで農業を始めると、初めのうちはコツがつかめなかったり作物が病気になったりで、思うような収入が得られない場合もある。そんなときも別の収入源があれば、リスクヘッジになるだろう。「農作業の受託料を受け取るだけでなく、農地、発電設備のすべてや一部を自前で所有する道もあります」と東氏は話す。

 ソーラーシェアリング型発電所が生み出す売電収入の使い道は、農家の経営安定だけではない。市民エネルギーちばは、売電収入の一部を地域に還元する枠組みも整えている。同社が所在する匝瑳市豊和地区には、同社や関連会社の所有や、同社が建設に関与し、他の企業や個人が所有するものなど、約7万平方メートル分の発電所がある。それらの発電所は売電収入のうち一定額を、地元の村つくり協議会に協賛金として納めることが取り決められている。

 市民エネルギーちばのもう1人の代表、椿茂雄氏は「年間約300万円が村つくり協議会に入るようになりました。耕作放棄地の放置ゴミを撤去して公園に整備したり、地元小学校にパソコン用モニターを贈ったり、地元の祭りの衣装を新調したりといった活動に資金提供してきました」と話す。椿氏の家は、豊和地区で約350年続く農家だ。環境問題と農村活性化を一気に解決するような仕組みを作りたいと考えていた椿氏と東氏が、太陽光発電に関心を持つ人たちの集まりで出会ったことから、市民エネルギーちばはこの地で活動を始めることになった。「売電収入で経営が安定すれば、若い人がこの地で農業を志すようになる。更に村づくりの資金源も得られる。二重の意味で地域の再活性化につながる枠組みなのです」と椿氏は話す。

 市民エネルギーちばの活動は、匝瑳市の地域活性化だけにとどまらない、すでに愛媛県、長野県や千葉県内の他の市町村などの地元の企業の人たちに、匝瑳市豊和地区での取り組みのノウハウを伝え始めているという。この地区と同じような活動が日本各地に広がっていくことを期待しているのだ。

 思えば江戸時代の農家は山で柴かりをしたり炭を焼いたりと都市部へのエネルギー供給に貢献していた。そう考えると農地で発電もするという取り組みは、農家の先祖がえりともいえるだろう。そんな先祖がえりが農村再生の切り札になるというのは、なんともエキサイティングな話ではないだろうか。 (五嶋正風)