第三の狙いは、「もんじゅ」失敗の責任を文科省に押し付け、核燃料サイクルという巨大利権を経産省で独り占めすることである。「もんじゅ」と違って、「アストリッド」は商業用の実証炉なので、文科省ではなく経産省所管にできるという「利権のおまけ」が大きいのである。

 経産省としては、これらの目的のために、どうしても高速炉「アストリッド」開発を続ける必要があったのだ。

 ところが2018年6月時点で、フランス政府が「アストリッド」の計画縮小を日本政府に示してきた。フランスは原発大国で、現在の原発依存度は7割超だが、これを50%まで下げる計画を立てている。脱原発ではないものの、差し迫って新しい原発を開発する必要性はそれほど高くないということも今回の決定の背景にあるようだ。

 冒頭で紹介したとおり、経産省は、200億円の予算を投入していて、18年度は51億円の大金を計画に参加する三菱重工業などにばらまいている。この予算は国民の血税だが、経産省の役人にすれば、自分が好きに差配できるポケットマネーであり、利権そのものである。

 このまま「アストリッド」プロジェクトが19年で終われば、20年以降、関連予算は不要となる。本来は数千億円規模に膨らむはずの経産省の予算に「穴」が空き、その分、省としての権限や利権が小さくなってしまうのを、何もしないで放置するということは、「官僚の常識」ではありえないことだ。

 また、高速炉は、核のゴミを再利用する核燃料サイクルの肝であり、その存在は、原発政策の前提である。それを失えば、原発維持は難しくなるのは必至。そのため、経産省は、フランス政府が凍結を実質的に決めていたのをわかったうえで、表向きはそのことには知らんぷりしたまま、その間に「アストリッド」に代わる「夢のプロジェクト」を作り上げようと画策していた。

 しかし、元々、高速炉は実現可能性が極めて疑わしく、先進国は次々と撤退してしまった。新プロジェクトを短期間ででっちあげようとしても、さすがに無理だったようだ。結局、経産省は、審議会で、抽象的な「戦略ロードマップ骨子」を示すことしかできなかった。そして、これをそのままオーソライズするために開催された政府の原子力関係閣僚会議は12月21日、事実上破たんした核燃料サイクルの重要性を謳い、長期的には高速炉の開発は必須であるという前提で、高速炉の実用化目標を今世紀後半に先送りする工程表を正式決定してしまった。どんな高速炉を開発するのかの具体像は全くなく、民間に競わせていくつかの技術の可能性を試した上で、24年以降に具体的な内容を決める予定だという。このため、読売新聞などが報じていたとおり、21日に閣議決定された政府の19年度当初予算案には、「革新的な原子力技術開発支援費」(6.5億円)が新規事業として盛り込まれた。また、既に凍結が決まった「アストリッド」を含め、国際協力のための研究開発にも41.5億円が計上されている。

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