つまり、シーズン中盤になるにつれて、鉄欠乏を補う必要があるということです。ラグビー強国であるオーストラリアでの選手の健康支援体制は、わが国より進んでいるようです。当然ですが、このような選手に食事だけで鉄を補充することは難しく、鉄剤の内服または鉄剤注射が必要になります。しかしながら、鉄剤の内服は、30%から40%の割合で嘔気や嘔吐、胃痛や下痢、便秘といった消化器症状が出ることがわかっています。副作用のために内服が継続できない場合、外来通院によって鉄剤注射による鉄補充を行うのです。
■スポーツ貧血に議論なし
昨年末、日本陸上競技連盟が鉄剤注射の使用の原則禁止を決めた、という報道がありました。鉄補充のやりすぎは問題ですが、鉄剤注射はドーピングにはなりません。鉄剤内服が継続できない人には、鉄剤注射が必要となります。
また、日本では貧血だけが問題視されましたが、世界のスポーツ界は、貧血ではないが、鉄が不足した状態のアスリートにも介入しようとしています。このあたり、わが国では全く議論がありません。鉄が不足した状態のまま、競技を続ける選手が出ないことを祈るばかりです。
最後に、新年から運動を始めようという方にお教えしたい論文があります。
デンマークのオーフス大学のBertelsenらの調査結果によると、太り過ぎや肥満のランナーは、ランニングを開始するとき、適正体重のランナーと同じトレーニング量を選択したと言います。
つまり、初心者であるにもかかわらず、最初から無理をしがちだということ。私も肝に命じて、サボっていたランニングを再開したいと思います。
◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)