読者のハードな報告の後には、HPの編集長から「めんげんに耐えたあなたは素晴らしい! もっと冷えとりを続けて!」という激励が付け加えられています。湿疹って明らかな疾患なんですけど、医療の素人があおって大丈夫か……と冷えとり記事を読みながら、こちらの臓腑が冷えてきます。その編集者本人のめんげんは、高熱の後、部屋にたちこめた、謎の異臭だそうです。彼女はこれを、体の奥から出てきた“お冷えさま”と命名。その後、腕に湿疹が出て、それをボリボリかき血が出て固まったとのことで、「毒出しの出口」と湿疹写真を堂々とアップ。

 ヒエトリサマたちの布教活動において、めんげん報告はちょっとしたイベントです。個人のブログでは痛々しい湿疹の写真が投稿されていることもありますので、検索してみようという奇得な方には、くれぐれも閲覧注意であることをお伝えしておきましょう。

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 ヒエトリサマたちのあいだでは、靴下重ね履きのほか、本書でも取り上げている布ナプキンやオーガニックコットンなど、ホリスティックな思想を孕む物件全般が好まれます。自分の体と向き合う自然なお手当で内なる声に耳を澄ませ、循環型社会を目指し、女性性を尊重し、反近代的・反科学的思想を取り入れ……って、こりゃ完全にほっこりテイストのニューエイジ運動(※)ですね。ていねいに入れたお茶で素朴なおやつを楽しむようなほっこり界に、70年代に発生したニューエイジ的なスピリッツが添加され、新時代のオシャレ自然派スピ文化(別名・呪い系ナチュラル)発生……という異界誕生の流れを感じた次第です。

 冷えとり健康法は、厳密に実践すればなかなかにハードですが、入り口はなんといっても靴下を重ね履きするだけですから、とにかく手軽なのが魅力でしょう。しかし「わたしを、大切にする」という毒出しファンタジーから、自分を全く大事にしていないという結果になりかねないことを、頭の片隅に入れておいていただけると幸いです。

※ニューエイジ運動
アメリカ合衆国、とりわけ西海岸を発信源として、1970年代後半から80年代にかけて盛り上がり、その後商業化・ファッション化されることによって一般社会に浸透、現在に至るまで継続している、霊性復興運動およびその生産物全般、商業活動全般。背景には科学発展至上主義への不安があり、既存の古い宗教や道徳は捨て、新しい思想に生きることが目的とされる。反近代、反既存科学、脱西洋(キリスト教)文明を特徴とし、ヒッピー文化などともリンクする。