その後、再生機構は高い規律を維持し、経産省や財務省の組織延命の策略を察知するや、電撃的に自ら解散宣言をして、5年の期限を待つことなく4年で解散した。その際も、残余財産の分配について、当初予想されていた赤字を回避するどころか出資金を全額払い戻してもなお432億円の剰余金が出たので、成功報酬という議論も論理的にはあり得るという話もあったそうだ。しかし、結局、規定通りの少額の退職金を支払っただけで終わった。

■経産省が犯したもう一つの過ち

 今回の経産省の対応を見ていると、まず、民間のプロで高額報酬を得ている人が公のために年収大幅ダウンで働くことはないという思い込みがあるように見える。これこそ、前述した官僚の思い込みだ。JICの田中社長が、怒りの記者会見で、報酬が「1円でも」JICに来たと述べたのは、あながち嘘ではないのかもしれない。少なくとも、世耕弘成経産相らが、「金が欲しくて民間人が怒った」かのような宣伝をしていることには、怒り心頭だったのだろう。
 官僚は、人間として、自分たちが民間人よりも一段上だと思いたがるものだ。今回は、その思い上がりが大きな失態を招いたと言っていいだろう。

 さらに、経産省は、より大きな間違いを犯したことに気づいていないように見える。それは、前にも述べた通り、官が入ることによる最大のデメリットである官僚や政治家の介入の問題である。

 この点は、国民からも見ても心配な話だが、実は、JICに参加する民間人にとっても、大きな関心事だ。彼らを安月給でも惹きつけるためには、「給料は安いけど、国のためになることを自由にやっていいよ」という殺し文句が絶対に欠かせないのだ。産業再生機構に集まった民間人も、その点には非常に強いこだわりがあった。それに応えたのが谷垣禎一再生機構担当大臣(当時)だったという話は、前述の先週の本コラムでも紹介したとおりだ。

 ところが、経産省は、単に約束した報酬について反故にしただけではなく、トップである世耕経産相が「今後の報酬やガバナンスのあり方には100%近い株式を保有する国の意向をしっかりと反映させる」と宣言したのだ。報酬だけでなく、「ガバナンス」という言葉まで出て来ると、かなり広範囲に経産省が介入するという印象を与える。

次のページ
もう優秀な人材が集まらない