■闇に葬られた産業再生機構を利用した経産省のインサイダー取引

 先週の本コラム「安倍総理が崩壊させた官僚機構を再生できるリーダーとは?」で書いた通り、私は、産業再生機構の設立のために経産省から内閣府に参事官として出向してその法案を作り、再生機構設立とともに執行役員となって、その後の事業運営に携わった経験がある。

 再生機構は、「存続期間5年、各個別案件の支援決定から再生終了までの期間3年」という非常に厳しい条件の下でダイエー、カネボウなど数々の再生案件に取り組み、通算312億円の税金を納め、解散時には432億円の国庫納付を果たしたことで知られる。しかも、通常の官の組織が延長、延長で、なかなか廃止されないのに、この機構は、何と予定を繰り上げて4年で廃止された。官の出番は終わったと当時の幹部が判断して、経産省や財務省の機先を制して、自ら幕引きしたのである。その成果と引き際の鮮やかさで、再生機構の評価は高く、今も官民ファンドの鑑として引用されている。

 そんな再生機構でも、設立前には様々な課題があったが、中でも大きな議論となったのは、政治家や官僚の介入をどうやって阻止するかということだった。その点に関するエピソードは、前述の先週のコラム「安倍総理が崩壊させた官僚機構を再生できるリーダーとは?」で紹介したとおりだ。

 それでも、経産省からの介入・圧力は並大抵のものではなかった。経産省から再生機構に執行役員として出向していた私は、経産省から入る介入にことごとく抵抗したが、実は、気づかぬところでとんでもないことが行われていたことが後からわかった。それは、経産省の担当課長らが、仕事上得たカネボウに関する情報を使って、同僚にインサイダー取引をさせていたという容疑で東京地検特捜部に立件寸前まで行ったという事件だ。しかも、その資金源が経産省の裏金だったというのだから、ただただあきれ返ってしまったのを覚えている。確かに、当時、経産省からはしつこくカネボウ案件の進捗状況について質問してきたのを覚えている。その情報を使ってインサイダー取引が行われ、地検も立件寸前まで行ったが、経産省が法務省に管理職ポストを一つ出向ポストとして提供することで取引が成立し、立件されなかった。担当検事が悔しがっていたという話を新聞記者から聞いたものだ。

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再生機構が示した民間人の「矜持」