テレビなどで山里を見ていると、「絶対に偉そうにしない」という強い意志を感じる。MCとして番組を背負う立場であっても、「下から目線」を徹底していて、得意げなそぶりを見せない。そんな山里は、偉そうにする人間を叩きたい人々の「嫉妬アンテナ」に引っかかりにくい。だから、目立たない代わりに、叩かれることもない。それでも、番組を成立させる仕事をきちんとこなすため、制作者からは重宝される。

 山里がこのスタンスを貫く理由の1つは、彼自身が人一倍嫉妬しやすい人間だからだろう。著書などでも明かしていることだが、彼は他人に対する嫉妬をエネルギーに変えながら芸人人生を歩んできた。嫉妬心の強い人間は、自分が嫉妬されることにも敏感である。だからこそ、その可能性を排除するためにことさらにへりくだり、自分の弱点やダメなところも堂々と見せて、職人として与えられた仕事をまっとうすることに徹しているのだろう。

 唐突だが、そんな山里はテレビ局で言うと「テレビ東京」に似ている。テレビ東京の局員はみんな自局のことをやたらとへりくだる。確かに、ほかの民放キー局に比べれば、ネット局は少なく、規模も小さく、番組制作の予算も少ない。だが、『池の水ぜんぶ抜く』『YOUは何しに日本へ?』『家、ついて行ってイイですか?』など、独自路線のバラエティ番組は高く評価されていて、根強いファンも多い。災害時などにほかの局が緊急ニュース番組を放送する中で、テレビ東京だけはレギュラーのアニメ番組を通常通り放送するようなマイペースぶりも愛されている。ネット上では一番人気がある局だと言っても過言ではない。

 山里の人気ぶりもテレビ東京のそれに近い。目立たないようにしているが、実は業界内でも業界外でもその存在をきちんと認められている。誰よりも嫉妬する人間こそが、誰からも嫉妬されていない。目立たずに売れる山里の「ステルス戦術」は今なお着々と進行中だ。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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