■0円タクシー 運転手の意外な喜び

「0円タクシーの特徴ではありませんが、いいお客様ばかりだなと感じています。タクシーはピリッとした方や少し高圧的な方もいて、お乗せする前から『次はどんな人だろう』と緊張が続きます。0円タクシーはそういったお客様がいないので安心してお迎えにいけます」

 そんな気苦労があるとは知らず、タクシー運転手の悲哀を感じてしまう。確かに、密室で素性の知れぬ相手と2人きりになることも多いタクシーでは常に緊張を強いられるのかもしれない。いわれのないクレームを受けることもあるのだろう。0円タクシーはドライバーにとっても嬉しい存在になっているようだ。他にこんな利点もある。

「年末は書き入れ時でタクシー運転手は勝負モードです。若いドライバーは『頑張るぞ!』と戦闘態勢なので、1日で6~7万は稼ぎます。でも、もう若くない私のような競争に参加できない者にとっては固定給がもらえる0円タクシーはありがたい。数秒で次の方が呼んでくれますから、日清さんのおかげで穏やかに年末を過ごせています」

 おしゃべりすること約30分。気がつけば自宅近くに着いていた。移動距離は約8キロで、値段はもちろん0円だった。

「ご乗車ありがとうございました。こちらどうぞ」

 1枚のカードが手渡される。

<この度は「0円タクシー」にご乗車いただきありがとうございました。2019年も皆様にツキのある1年が訪れますようお祈りいたします。2018.12>

 ツキというよりは執念で乗車したような気もするが、師走の慌ただしさから離れられる一時だった。(AERA dot.編集部・福井しほ)

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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