同協会によると、TOEICの問題は「世界中の全ての人に対して、違和感や不快感を与えるようなものは出題しない」ことをポリシーに、アメリカのテスト開発機関「Educational Testing Service(ETS)」で作成しているという。

「例えば、宗教で飲酒や喫煙が禁じられている国があります。職場で辛い体験をした人が受験される可能性もあります。そういった方が不快感を抱かないよう、センシティビティレビューを行う専門のスタッフがチェックしています」(同協会担当者)

 具体例が細かく定められているわけではないが、不適切だと判断される問題は出題しないよう細心の注意を払う。チェックするスタッフも性別や国籍が多岐にわたるよう配慮し、試験を受ける上で語学力とは無関係な、受験者が動揺するような事柄は排除されている。

 そして、この不思議な「TOEICの世界」のことは把握しているが、巷で話題になっていることについての感想は「特にございません」とのことだった。

■死者不在 事件・事故が起こらない「平和」すぎる世界

 問題作成の裏側が見えたところで、TOEICの不思議な世界の話に戻ろう。

「TOEICには生死にまつわる出来事も大きな自然災害が起きることもありません」

 そう話すのは神田外語学院講師で、これまで通算103回TOEICを受験し、満点の990点を91回取得したTEX加藤先生だ。先の「金フレ」著者で、TOEICの世界のことを見つめ続けているトイッカーの一人でもある。

 大切な人を亡くしたり、パワハラ、セクハラ、ブラックなど、辛い経験をした受験者に配慮することで図らずも構築された「TOEICの世界」。事件・事故が起きない世界なら、警察官も消防士も不要ではないか。でも、問題にはどちらもしっかりと登場する。何のために?

「警察官はパレードの交通整理に一役買います。以前受けた試験で消防士が出てきたけど、もちろん火事じゃない。消防署員は体を鍛えなければいけないから、一週間の中で誰が一番運動したかの消費カロリーを発表しあっていました」

 日々鍛錬している消防署員たちが活躍する場はない――。平和で何よりと言うべきか。

 そして、TOEICの世界では男女比のバランスも良く、登場人物には様々な国の代表的な名前が散りばめられているという。こんな豆知識も。

次のページ
現代と逆行した世界