そこで、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は2021年卒からの就活ルール廃止を表明した。これに対して、急に変更すると多くの学生が混乱するという懸念が強まり、政府からも即廃止には「待った」の声がかかった。そして、とりあえずは、今の就活ルールが維持されることになった。

 ただし、これはとりあえずの話で、経団連が強く要望している以上、いずれは就活ルールが廃止される可能性は高い。しかし、それで経団連企業の経営者が望む結果につながるかというと、そうはならないと私は見ている。

■企業も学生も疲弊するルールなき就活

 元々、就活ルールは企業の青田買いが横行すると、採用活動がどんどん前倒しになって、学生が学業に打ち込めなくなり、大学教育の質が下がってしまうという弊害を避けるために設けられた。

 実は、今回同様に「正直者が馬鹿を見る」ということで、97年から就職協定が廃止になり、04年までの7年間、実質的にルールがなかったことがあるが、多くの企業が2年生からの囲い込みに走ったため、就活スタートが大幅に前倒しされ、大学は学問の場ではなく、就職活動の場となってしまった。企業側も、2年から4年の卒業時まで内定者の引き抜きを防止する必要があり、採用業務は何倍にも膨れ上がった。これは大変だという話になり、結局また就活ルールが復活した。

 就活ルール廃止となれば、今回はさらに熾烈な採用前倒しが起きるだろう。なぜなら、人手不足は深刻さを増し、人を採用できるかどうかが、企業の盛衰に深刻な影響を与える状況になっているからだ。

 ただし、就活ルール廃止は、全ての学生に同じ効果を及ぼすわけではないし、過去に起きたことがそのまま再現されるというわけでもない。

 例えば、企業は、昔と違い、即戦力になる人材を採ろうという傾向が強くなっているため、有名大学出身者以外は、本当に使えるかを吟味したいと考えるようになっている。

 今就活ルールを廃止すれば、優秀な学生には1年生のときに内定が出るが、そうでない一般の学生は、「採用直結型」と称するインターンに参加するという形の就活が1年生から始まり、4年生まで競争させられることになるだろう。春夏の休みの期間でなくてもインターンを行う企業も増える。優秀だと認められた学生から順々に内定が出るが、取り残された立場の弱い学生は、内定が欲しいならもっと頑張れと馬車馬のごとく働かされた挙げ句、4年の秋になっても内定が出ず、卒業時には失業状態ということが起きる可能性もある。その結果、これまで、諸外国に比べて非常に低かった日本の若年失業率が一気に上がる可能性すらある。多くの学生は長期間就活に忙殺されて勉強ができず、日本の大学教育はますます劣化するのは確実だ。

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一方、企業側は…