第一線のマーケターの間で、いま話題になっている一冊の翻訳本がある。『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』(朝日新聞出版)だ。著者は南オーストラリア大学のバイロン・シャープ教授。同教授はコカ・コーラやP&Gなど多数の世界企業が利用する同大アレンバーグ・バス研究所のコアメンバーでもある。

 なぜ日本のマーケターたちが注目しているのか? 「これまで繰り返したくさんのマーケティング本の中で語られてきた<常識>に真っ向から挑戦していて、とても刺激的だし説得力が半端ないからでしょう」と話すのは、数々の話題を呼ぶ施策で日本マクドナルドの業績をV字回復を牽引した伝説のマーケター、足立光さんだ。足立さんに同書の魅力をあらためて読み解いてもらった。

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 コトラーの理論をはじめ、いま「正解」と信じられているマーケティング理論がかならずしも「正解ではない」ということは、さまざまな「ビジネスの現場」を経験してきた中で、ある程度わかっていました。

 ただ、これだけまとまったかたちでエビデンス(科学的根拠)が提示されて、きれいに証明されてしまうと、正直これは困ったなとも思いますね。たぶん、いろんな「マーケティングの先生」の仕事がなくなるのではないかと。自分自身、この10月に発表された「マーケティングの神様」の名前を冠した「Kotler Award Japan 2018」(NewsPicks主催)というビジネスコンテストの審査員をやっていたので……。

『ブランディングの科学』の中でシャープ教授は、たとえば「差別化は効きません」「ロイヤルティ・プログラムは効きません」と明言しています。これは、いまのマーケティングの潮流からすると、まったく逆の主張です。

 消費者をターゲティングして、そこに対して差別化してメッセージを打っていくというのは、昔からマーケティングの基本中の基本です。それが効かないということを、広範囲の業界からの膨大なデータを駆使して科学的に断言しているわけですから、この本を読んで衝撃を受けるマーケター、マネジメント層は多いと思います。

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たとえばマクドナルドでも…