残る球団で補強ポイントとマッチするのはDeNAとヤクルトになる。ともに、ドラフト1位で先発タイプの大学生右腕を獲得したが、それだけでは上積みは十分と言い難い。いずれも金子を獲得となれば、大きなプラスをもたらす可能性は高いだろう。ただ、どちらかを選ぶとなると、ヤクルトをおすすめしたい。一つは金子のピッチングスタイルだ。スピードはあるが回転の良いボールで被本塁打の多いタイプであり、本拠地である横浜スタジアムが狭いDeNAは金子にとって不利に働く可能性が高い。同じオリックスでバッテリーを組んでいた伊藤光が在籍しているが、それ以上に球場のマイナス要素が大きいように感じる。

 一方のヤクルトは野村克也監督時代から再生工場と呼ばれているように、他球団を退団したベテラン選手が復活した例が多いことが何よりのプラス材料だ。石川雅規、館山昌平などのベテランも残っているが、ともにピッチングスタイルは異なるため良さを消し合うことはないように感じる。伝統時に他球団から移籍してきた選手に対しても温かく迎え入れるチームカラーであり、野手ではあるが同じくオリックスを自由契約になって見事な復活を遂げた坂口智隆が在籍していることも心強いだろう。

 最後に金子が輝きを取り戻すための条件だが、やはり気になるのはストレートの質が落ちていることだ。かつては数字以上に手元での勢いがあり、低めから伸び上がるような球筋に特長があったが、今シーズンはそのようなボールがなかなか見られなかった。高い制球力は健在で他にもあらゆる球種を操るが、金子の生命線はやはりストレートである。そこで参考にしたいのが同じ学年でかつてオリックスでも一緒にプレーした近藤一樹だ。先発とリリーフという違いはあるが、近藤はヤクルトに移籍後にストレートの勢いを取り戻し、今シーズンは防御率こそ3点台ながら最優秀中継ぎ投手のタイトルも獲得している。実績では金子の方が圧倒的に上だが、近藤に学ぶべきポイントはきっとあるはずだ。

 実働13年間で120勝をマークし、通算防御率2点台というのも立派な数字である。このまま終わってしまうのを惜しく感じているファンも少なくないはずだ。かつての栄光を取り戻すために、金子がどのような判断を下すのかに注目したい。

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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