関西弁以外で漫才を演じるときには、表現の幅が限られてしまうため、それぞれの芸人が何らかの工夫をしてそのハンディキャップを補う必要がある。例えば、漫才の途中で特定のシチュエーションを演じるコントに入る「漫才コント(コント漫才)」はその一例である。漫才をコントに近づけることで、非関西弁で漫才をする違和感を薄くすることができる。『M-1』で優勝しているサンドウィッチマンやパンクーブーブーは典型的な漫才コントを得意とする芸人だ。

 また、単なる言葉の応酬にとどまらない新しいシステムを発明する、というのも1つのやり方だ。例えば、『M-1』決勝経験のあるカミナリは、ツッコミ役の石田たくみがボケ役の竹内まなぶの頭をはたいた後、一拍の間をおいてからツッコミの言葉を叫ぶ、という技を編み出した。また、『M-1』で四度の決勝経験を持つハライチは、岩井勇気の放つボケフレーズに澤部佑がそのまま乗っかって、ツッコミに切り替わる前に次のボケフレーズに再び乗っかっていく、という「ノリボケ漫才」を発明した。

 このように新しいシステムを取り入れた漫才は、初めて見る人に驚きを与えて、大きな笑いを巻き起こす。だが、カミナリもハライチも『M-1』で優勝は果たせていない。システムの漫才は、言葉の応酬だけの漫才に比べると技術的には物足りないと思われてしまうからだ。

『M-1』の出場資格はもともと「結成10年以内」だったのだが、2015年からは「結成15年以内」に改められた。このルール改定によって、出場する芸人の全体的なレベルが上がってしまい、単なる面白さや笑いの量では差がつきにくくなっている。準決勝に進むぐらいの漫才師は、全員がとてつもなく面白いし、確実に大きな笑いを取る。そのような要素では差がつけられないのだが、審査員は何らかの基準で選別をするしかない。そこで、やむを得ず「しゃべりの技術」を基準にして採点をしているのではないだろうか。そのため、しゃべりだけで勝負している関西芸人が、本来のアドバンテージを生かしてますます台頭するようになっているのだ。

次のページ
関西人の包囲網をかいくぐるのは?