民俗学者、柳田國男の出身地でもある福崎町。趣味で造形をたしなむ町職員、小川知男さん(44)が2013年、当時の町長から「カッパを池から出せないかな。よろしく」と言われたことから始まった、妖怪と造形のまちおこし。14年、柳田の生家がある辻川山公園に設置されたカッパは、池から定期的に飛び出す斜め上の発想が受け、町にブームを巻き起こした。町を訪れる人も増え、13年度は約25万人だった観光客数は、17年度は1.6倍の約40万人となった。

 カッパが受けたことから、町は14年から「全国妖怪造形コンテスト」を開催。16年には、公園に小屋から飛び出すてんぐ像を設置した。翌17年は、将棋を指す「カッパ」、パソコンでグーグル検索にいそしむ「てんぐ」のベンチを制作。さらには、カッパに取られるとふぬけになってしまうという「尻子玉」を思わせるウズラの卵入りカレー、カッパのプラモデルなどを開発、人気を集めている。

 妖怪ベンチは、観光客らに町の玄関口であるJR福崎駅から商店街を通って、辻川山公園までを散策してもらおうという狙いで設置された。「駅から公園までを妖怪ベンチでつなげば、途中の商店に立ち寄る人も増えるのではないかと思いました」(小川さん)

「カッパ」と「てんぐ」に続く妖怪ベンチは、全部で7基。原型の制作は、海外在住者を含む全国妖怪造形コンテストの過去の入選者に依頼した。題材は、柳田の著書『妖怪談義』に出てくる妖怪だ。デザインはほぼおまかせで制作してもらったところ、「雪女」や「また」「一反もめん」「鬼」「一つ目小僧」「海ぼうず」「油すまし」と、独創的で、おかしみのある作品がそろった。

 それから、高さ20~30センチほどの原型を、高さ1メートルほどのベンチに再現。置き場所は、設置を求める商店主らによる「ドラフト会議」で決めた。18年3月に配置されるやいなや話題となり、町にはウオーキングマップを手にベンチを探して回る観光客らの姿が見られるようになった。小川さんは「お店の売り上げが1~2割上がったという話も聞きます」と話す。

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