有言実行でファイナルズ出場を果たした錦織圭(写真:getty Images)
有言実行でファイナルズ出場を果たした錦織圭(写真:getty Images)

 8月末の全米オープンを迎えた時点で19位だったランキングは、レギュラーシーズン最後の大会であるパリ・マスターズを終えた時、世界の9位まで達していた。さらにその数日後には、当時4位につけていたファン・マルティン・デルポトロがケガによるシーズン終了を表明したため、繰り上がりでATPワールドツアーファイナルズ出場が確定する。

 トップ10入り、そしてツアーファイナルズの出場--この夏ごろに明言していた今季2つの目的地に、錦織は有言実行で駆け込んだ。

 パリ・マスターズが終わった後、錦織は5日間、完全な休養を取ったという。8月末からの約2カ月間で、ランキングを10あげるために戦った試合数は実に25。これは、今回のツアーファイナルズ出場8選手はもちろん、その出場権を争ったトップ15まで拡大しても、最も多い数字である。参考までに他の選手のそれもあげると、錦織同様に最後まで出場レースで競ったドミニク・ティームは19試合。パリ・マスターズを制し、補欠としてロンドン入りしたカレン・ハチャノフは錦織に次ぐ22試合。最終的にツアーファイナルズを制したアレクサンダー・ズベレフは、16試合であった。

 明確に「トップ10」と「ファイナルズ出場」を意識し戦ったこの2カ月間が、肉体のみならず、精神面でも錦織を疲弊させたのは確実だろう。その後、ある種の達成感を抱えてテニスから離れた数日間が、彼の精緻なメカニズムを、多少狂わせたとしても不思議ではない。

 レギュラーシーズンの後に行われる、ボーナスステージ的な側面の強いこの大会で、良いパフォーマンスを発揮できるかは、その存在を念頭に置いていたか、否かに大きく左右される。フェデラーはその重要性を「これは僕の場合だが」と前置きした上で、次のように述べていた。

「僕は常に、ペース配分を考えている。この大会をスケジュールに組み入れ、タンクに余力を残し、そしてピークを合わせられるようにしている」

 このフェデラーの言葉になぞらえるなら、錦織の場合は、タンクが空に近い状態でロンドン入りしていたということだろう。そこに加えて今大会では、独特の飛び方やバウンドを生むコートとボールの組み合わせに、多くの選手が手こずった。3試合すべてを戦い終えた錦織の、「正直、内容的には全く納得できない。最後まで感覚がつかめずに終わりました」の言葉には、楽しみにしていた舞台で、思うようなプレーが出来なかったことへの失意が滲む。

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ファイナルズに出られたことは「ほぼ奇跡」