この報道が出た当初、世間では番組側を擁護する声が多かった。その一因は、MCである内村の好感度が高いからだろう。この事件に際して、内村を責めるような声は皆無だった。視聴率が低迷を続けていた『紅白』も、でっち上げ騒動で揺れた『イッテQ!』も、内村の神通力に守られて何とか番組としての命脈を保っているような状態である。内村はいまやテレビ界でも「最強の駒」になりつつある。

 内村がテレビでMCとして重宝されているのは、彼が「いい人キャラ」だからだ。今のテレビでは基本的に「本音を言える人」や「イジり芸の上手い人」が求められている。マツコ・デラックス、有吉弘行、坂上忍など、本音を堂々と言える人は、多くの視聴者に共感されて、安定した人気を獲得する。いわば、他人に対して厳しいことを言える人の方が評価されやすい時代なのだ。

 ところが、内村はそういうタイプではない。みやぞんのようなスキだらけのイジりがいのある人間を前にしても、あまり厳しくツッコミを入れるようなことはせずに、優しい笑みを浮かべながら温かい目で見守ることの方が多い。

 内村は専門学校時代に出川哲朗に出会い、出川を座長とする劇団に所属していた。相方の南原清隆も座員の1人だった。今でこそ出川はイジられキャラということになっているが、当時は劇団を仕切るリーダー的存在だった。出川は俳優として映画などにも出演していた。

 出川が今のような形でリアクション芸人として再評価されるのは、ビートたけしやダウンタウンにその才能を見いだされてからだ。内村は出川をそういうふうに扱ったりはしなかった。出川をどういうふうに扱うかというところにも、内村の芸人らしからぬ優しさがにじみ出ている。

 内村がMCを務めてきた番組の中には『クイズやさしいね』『スカッとジャパン』(いずれもフジテレビ系)など、優しさを全面に出した企画を含んでいるものがある。前に述べたようなきつい感じのタレントでは、この手の番組のMCは務まらない。本音キャラ、イジりキャラが主流になっている時代からこそ、そうではない種類の番組では、それとは正反対の特性を持つ内村が必要とされるのである。

 ある番組で、内村が沖縄にロケに出かけてイルカと泳ぐという企画があった。ところが、撮影前日に台風が来て柵が壊れてしまい、イルカは逃げ出してしまった。そのせいでロケができなくなったことをスタッフが内村に告げると、内村は怒るどころか「それでそのイルカは大丈夫だったの?」とイルカの心配をしていたという。内村は人に優しいだけではなく、イルカにも優しかった。彼の人柄がにじみ出ているエピソードだ。誰よりも優しい芸人、内村光良。この分野ではしばらく彼に追いつく者は現れないだろう。(ラリー遠田)

著者プロフィールを見る
ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

ラリー遠田の記事一覧はこちら