しかし--。一部からの否定的な見方を覆す形で、渡邊は夢舞台に到達した。厳しい評価をした人たちに見る目がなかったというよりも、このサウスポーの成長度と適応能力が彼らの予想以上だったのだろう。

 自分自身をよく知り、チームのために必要なことができるのが渡邊の長所。大学でも2年生頃から複数のポジションを守れるペリメーターのディフェンスに磨きをかけ、4年生時には所属カンファレンスの最優秀守備選手賞に選ばれるほどに成長した。同時にオフェンス面でも徐々に力をつけていったことは、4年連続で上昇させたカレッジ時代の平均得点が証明している。

 加えていわゆる“バスケIQ”の高さも出色。献身的な姿勢ではどのレベルでもチーム内で右に出るものはいなかった。確かに身体能力、オフェンス力といった面では「アメリカにいくらでもいる」レベルだったとしても、これほど多くの長所をバランス良く備えた選手がNBAから注目されたのは当然だったのだろう。

 また、渡邊のプレースタイルが現代のNBAの需要と合致したのも大きかった。近年のNBAではいわゆるポジションレス化が進んでおり、渡邊のように複数のポジションが務まる多才さがより重宝される傾向にある。また、ディフェンスと3ポイントシュート力に特化した“3-Dプレイヤー”の存在も現代のゲームでは重要。絶え間ない努力によって確立された渡邊の長所と、このようなリーグ全体のトレンドが見事に合致し、日本人2人目のNBAプレイヤー誕生への推進力となったのである。

 1年後には渡邊に続き、ゴンザガ大の八村塁のNBA入りも有力視される。 もちろん現代最高の才能を誇る2人がやり遂げたからといって、他の日本人選手たちの道が容易になるわけではない。ただ、渡邊の努力によって、日本の多くの選手、ファンにとってNBAがこれまでより身近なものになることの意味は大きい。新時代は始まったばかりである。渡邊のやり遂げたことの真の価値は、少し時間が経った頃に改めて見えてくるのかもしれない。(文・杉浦大介)