※写真はイメージです(写真/getty images)
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 フリージャーナリストの安田純平さんがシリアで武力勢力に拘束された事件で「自己責任」という言葉が注目を集めた。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんは、本人が言う「自己責任」と論客が言う「自己責任」は似て非なるものと感じたという。夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「夫婦にとっての自己責任」について取り上げる。

【年収を抜かれた妻に海外勤務と言われ、キレた40代夫が抱くコンプレックスの深層心理】

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 安田純平さんが解放されました。国際政治について何か語るほどの知見はありませんが、この件で話題になった「自己責任」という言葉は、カウンセリングでも重要な概念なのです。安田さん自身も会見で「自己責任だ」とおっしゃっていたようですが、「自己責任論」を唱える方たちにとっての「自己責任」とは少々意味合いが違って感じられました。

 安田さんが言う「自己責任」は、自分が主体的に行動した結果、拘束されたのも、仮に誰も助けてくれなくて殺されてしまったとしても、自分の身に起こったことは自分の人生として引き受ける、という意味のように思えます。自分の人生を否認も責任転嫁もしない。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、意外に難しいことです。

 たとえば、四年制大学を卒業して就職したものの、寿退社し、専業主婦として40年を過ごした久美子さん(仮名、60代)は、不満そうな表情でこうおっしゃいました。

「親に、ただでさえあなたは大学に行って婚期が遅れたんだから、とにかく早く結婚しなさいと言われ、まだ働き始めたばっかりだったのですが、親が選んだ人とお見合いで結婚しました。夫は転勤族のモーレツ社員で、生活に不自由はありませんでしたけど、夫は家庭を顧みてくれませんでした。私は本当は働きたかったし、お金を貯めて留学したかったのに、40年間ずっと家庭に縛り付けられてきたんです」

 自分のしたいことができなかったのは、とても辛いことだったと思います。自分は思い通りに生きられなかったのに、夫は自分のおかげで思う存分仕事に打ちこんで実績を残し、社会的評価も得られました。久美子さんは子どもが小さいうちは「○○ちゃんのお母さん」と呼ばれ、社宅では隣近所の夫の同僚の奥さん方に「○○さんの奥さん」、家庭では夫と子どもたちに「ママ」と呼ばれ、自分の名前を呼んでくれる人さえいませんでした。

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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残りの人生、夫を恨み続けるのも自由