守護神として日本一に貢献した森 (c)朝日新聞社
守護神として日本一に貢献した森 (c)朝日新聞社

 明らかに、化けた。

【ランキング表】広島はFA流出危機、ソフトバンクは高齢化… 年俸ランキングで読み解く両チームの意外な弱点<日本シリーズ>

 マウンドでの佇まいが、何とも落ち着いている。かつてのように、帽子がずり落ちるほど目いっぱいの力で投げるシーンもまったく見なくなった。その方が相手を抑えられるということに気づいた。経験はまさに力だ。

「ブルペンで、ふわふわしている自分がいたんですけど、試合には、すっと入っていけましたし、よかったです。ここで投げられると思っていなかったし、投げられて自信になりました」

 ソフトバンク、2年連続の日本一。その最後のマウンドには、ストッパー・森唯斗が立っていた。歓喜の瞬間を一番高い場所で迎えることのできる“特権”は、チームの最後を締めくくる、その過酷な任務を果たし続けてきた男にだけ与えられる。

「サファテがいない中で、彼が1年間、チームの最後を締めてきた人間。心も体も成長できたところがたくさんある。投手を支え続けてきてくれたし、一番最後がしっかりしているだけで、そこに向かってみんなが頑張ろうとなる。最後のマウンドに、誰もがいて欲しいのは森君だと思う。そこは迷わずですね」

 工藤公康監督が胴上げ投手に森を“指名”したのは、3連勝で日本一に王手をかけたその翌日、博多から広島へ移動する2日のことだった。まだ、勝ったわけではない。戦う前から勝つことを前提とした構想を披露したりすると「油断している」「相手をなめている」と非難もされる。勝負師として心の隙を見せたかのようにも映る言葉を、監督がうかつに発するのは相手を無用に挑発することにもつながってしまう。それでも、指揮官は公言した。

 そこにあるのは、絶大の信頼感だ。この1年間の歩みは、森をたくましく、大きく成長させてきたのだ。

 昨季54セーブの絶対的守護神、デニス・サファテが右股関節手術で戦線離脱したのは開幕直後の4月だった。昨季72試合に登板、最優秀中継ぎ賞のタイトルも獲得したセットアッパー・岩崎翔も右肘手術で離脱した。リーグ優勝と日本一の立役者だった2人の離脱で、投手陣のやりくりは瞬く間に火の車となった。その苦境下で、サファテの代役に指名されたのが森だった。

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森が過ごした自問自答の苦悩の日々