本田はミラン時代、ピッチ上のパフォーマンスのみならず、自身がプロデュースするソルティーログループのサッカースクール経営やSVホルン(オーストリア)の経営権取得など、さまざまなビジネスに着手した。現地では批判的に見る人も少なくなかったようだ。しかしながら、多民族国家で価値観の入り混じる豪州では、そういった挑戦的な生き方がむしろ大いに歓迎される。引退後にアルコールやギャンブルに走るような、かつての典型的フットボーラーと一線を画す生き方がメルボルンV側にもリスペクトされているようだ。

「メルボルンVにはアンソニー・ディ・ピエトロ、ヨセフ・ミラベッラ、マリオ・バシンという3人の幹部がいて、それぞれ野菜と果物の売買、中国製ライトの輸入販売、住宅建設で大成功を収めています、彼らのビジネスにもホンダの存在は役立つでしょうし、ホンダにとっても新たなビジネスチャンスになる。お互いウイン・ウインな関係ではないかと考えます」とスティッカ氏は前向きに語る。

 ただ、本田にとって1つ懸念される点があるとすれば、メルボルンVのレベルの問題だ。デルピエロがシドニーFCでプレーした2年間もチーム自体がいい状態でなく、本人もかなり苦しんだという。

「デルピエロが来た2年間、シドニーFCの平均観客数は1万2000人から2万6000人へとジャンプアップ。メディアや社会全体の関心度が高まり、スタジアムの熱気もかつてないほどでした。しかし、彼のパフォーマンスに周囲が応え切れなかった。2012-13シーズンは7位と、上位6位以内が参加するプレーオフに出られず、2013-14シーズンは5位に食い込んだものの、やはりタイトルには手が届かなかった。デルピエロ本人にとっては残念な結果だったと思います」とイタリアの英雄の代理人も務めたスチィッカ氏は述懐する。

 現在の本田も似たような状況と言えるかもしれない。今夏の移籍で加入したスウェーデン代表FWオラ・トイボネンが負傷離脱している今、得点に絡む仕事は本田に集中している。守備陣のレベルもやや乏しく、あっさりと失点を繰り返してしまっている。横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督の下で修業し、Aリーグ随一の指揮官となったケビン・マスカット監督がどうチームをマネジメントしていくか。そこが本田の成否を大きく左右しそうだ。

 Aリーグの場合、春から夏、秋にかけてのシーズンであり、移動距離も長いことから、練習の負荷を軽減する傾向が強いという。実際、メルボルンVも試合翌日がオフ、2日後がクールダウン、3日後がサッカーバレーなど軽いメニューで、その後の試合までの数日が戦術練習という形を採っていた。シーズン中でも週1〜2回の2部練習を取り入れているドイツなどに比べると、やはりトレーニング量は足りない。そこが選手のレベルアップの妨げになっているとしたら、本田にとってもプラスには働かない。環境面を含めて改善できるかどうかがポイントになるだろう。

 そんな困難はあるにせよ、現地大物代理人が「彼は間違いなく成功する」と言い切ったほど本田圭佑の存在価値は大きい。そこは我々がいま一度、再認識すべき点だろう。(文・元川悦子)