バットを折りながらサヨナラ弾を放ったソフトバンク・柳田 (c)朝日新聞社
バットを折りながらサヨナラ弾を放ったソフトバンク・柳田 (c)朝日新聞社

 勝負事には「流れ」がある。

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 だから、勝っている側は「動くな」とも言われる。優位に進んでいるときに、念には念を入れるような格好で何かしらの手を打つことで、その勢いが止まってしまうかもしれない。ならば、その「流れ」に身を任せるという大胆さも時には大事なのだ。

 なのに、工藤公康監督は動いた。

 先発投手を勝利投手まであと1人のところで代え、通算2000安打を放ったベテランには送りバントを命じ、守護神を8回途中から投入。裏目に出れば「動き過ぎ」とも非難される。選手たちには、肉体面でも精神面でも大きな負荷がかかる。下手をすれば、チーム内に不協和音すら生まれかねないような勝負手を指揮官は立て続けに繰り出した。

「途中、失敗もありました。ピッチャー陣には申し訳ない。でも、勝ちに結びつけられるならと」

 自ら、相手よりも先に動き、自分たちで生んだ「流れ」に乗っていこうとした。その「動」の采配を象徴的な「3つの局面」から分析していきたい。

【4回裏無死一、二塁】

 1点ビハインドで始まったこの回、無死満塁から、5番・中村晃の中前タイムリーが飛び出し、2-1と逆転に成功。さらなるチャンスで、打者は6番・内川聖一。今季後半は疲労や右肩痛で2軍調整が続き、1軍に再合流できたのはCSファイナルステージの西武戦から。決して本調子ではない主将とはいえ、通算2000安打を放ち、4年前の日本シリーズでもMVPに輝くなど短期決戦には強いと言われ、ここ一番での集中力で他の追随を許さない勝負強さがある。

 その内川に、送りバントを命じたのだ。

「内川君にお願いして『バントをしてくれ』と。気持ちよく『はい』と言って、バントをしてくれました。ベンチに帰ってきたときに、帽子を取って『ありがとう』と伝えました」

 内幕を、指揮官が自ら明かした。

 記録をさかのぼると、内川の「犠打」の欄には2011年からずっと「0」が並んでいる。つまり、ソフトバンクFA移籍してきたその年から、レギュラーシーズンで内川はバントをしていない。二、三塁にチャンスを広げ、広島をさらに突き放そうという場面で、工藤監督は“前例なし”の一手をここで打ってきたのだ。

 後続が倒れ、追加点はならなかった。それでも、指揮官の采配はさらに積極性を増していく。

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裏目に出ても「動き」を止めない工藤監督