しかし、いずれにしても、それはしっかりと静養した後のことである。それに何カ月かかろうと、私たちに「早く説明しろ」などという資格はない。

◆最高の国際貢献

 紛争地で拘束され釈放されたジャーナリストは多くの国ではヒーローである。最近のフランスのケースなどでは大統領が到着した飛行機まで迎えに行って歓待し、さながら祖国凱旋といった雰囲気であった。

 他国と同じように、危険を冒してまで弱者に寄り添い紛争の現場を報道する日本人がいる、それを「誇りだ」と思える日本社会でありたい。

 税金泥棒という非難が多い。日本政府がどの程度の動きをしてそれにどれだけの税金が使われたのか知る由もない。しかし、安田さんがこれまで多くの紛争地の事実を伝え、そのために今回私たちの税金が使われたのであれば、最高の国際貢献ではないか。安田さんのようなジャーナリストの働きで、事実は国際社会に伝えられ、その結果に何人もの命が救われてきた。日本の地位を世界的に高めるために使われた費用であるとすらいえる。

 バッシングにかかわっている人は、批判するのに使っているエネルギーを、シリアの情勢がどうなっているかを知り、状況を良くするにはどうしたらいいのか、といったことに振り向けるべきである。

 今後再び安田さんが紛争取材に向かうのか、本人の全くの自由であるが、再び向かうのであれば「ありがとう」「頑張ってください」と送り出したい。(国際弁護士・猿田佐世)

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猿田佐世

猿田佐世

猿田佐世(さるた・さよ)/シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」代表・弁護士(日本・ニューヨーク州)。各外交・政治問題について、ワシントンにおいて米議会等にロビイングを行う他、国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。研究テーマは日米外交の制度論。著書に「新しい日米外交を切り拓く(集英社)」「自発的対米従属(角川新書)」など

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