広島・緒方監督とソフトバンク・工藤監督 (c)朝日新聞社
広島・緒方監督とソフトバンク・工藤監督 (c)朝日新聞社

 前哨戦は肩すかしだった。

 ソフトバンクの全体練習が始まった午後4時。小雨の広島・マツダスタジアムの三塁側ベンチ前で、黒いグラウンドコート姿の工藤公康監督が明かした内幕は、その1時間前に開かれた「監督会議」でのことだった。

 監督会議は日本シリーズの開幕前、ルールや申し合わせを確認するために行われる。予告先発をやるのか、やらないのか。危険球の判断が両リーグで違うのではないのか? ここで、両チームの監督同士の丁々発止の駆け引きが繰り広げられるのが恒例行事でもある。

 昨年は、工藤監督が提案した予告先発をDeNAのアレックス・ラミレス監督が拒否。開幕前に、両監督がお互いに火花を散らす。そのすり合わせの中で、お互いの思惑が透けて見えてくる妙味もあるのだ。

 ところが指揮官によると、今年は監督会議が始まる前に両監督のもとへ日本野球機構(NPB)の関係者がやってきて、希望や要望などを先に聞いてくれたのだという。そのため、監督会議が始まってすぐ、両球団の意向を受けた形として「予告先発」を行うことが発表された。工藤監督にとっては就任4年目で3度目の日本シリーズ出場だが、事前の“根回し方式”で「今までそういうの、なかったと思うよ」。監督同士の論戦は避けられ、どこか穏やかに進んだ監督会議はおよそ15分で終了し、「事前に聞いてもらっといてよかったよ」と工藤監督。見ている側には、どうも盛り上がりに欠けたように映ったが、それは当事者以外の勝手な見方に過ぎないのかもしれない。

 閑話休題。予告先発で発表されたソフトバンクの開幕投手はおおかたの予想通り、千賀滉大だった。

「このシーズン、千賀で始まった。だからというわけじゃないですけど、こうやって巡り巡ってきた。だから、千賀には大事。どういう投球をしてくれるのか。こちらはすごく期待する部分ではありますね」

 投手統括コーチの倉野信次が、その抜擢理由を明かした。今季、レギュラーシーズンでも初の開幕投手を務め、13勝。昨年、DeNAとの日本シリーズでも、第1戦に先発して7回1失点(自責0)の好投で、勝利投手にも輝いている。2年連続での大役にも「普段と変わらない心境」と語った千賀は、目の前の敵を冷静に見据えていた。

「短期決戦の頭。チームに流れを持ってこられるようにしたい。広島はとにかく打線が強いイメージ。足もある。長打もある。すべてが怖いチームで、西武と同じくらいじゃないですか? 気を引き締めないと。でも投手が抑えたら、流れが来ると思う」

 日本ハムとのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ、西武とのファイナルステージで6勝。そのうち5試合で、ソフトバンクが先制点を挙げている。CSでの8試合で59得点、特に西武との5試合での計44得点はCS同一ステージでの最多記録。好調の打線を考えれば、投手が序盤を我慢することで試合の主導権をつかむことができる。

 千賀も、自身初の中4日登板で臨んだファイナルステージ第3戦の今月19日に、西武打線を5回1失点に抑え込んでいる間に、打線は5回までに12安打で12得点。余裕の試合展開を生み出したのも、千賀の踏ん張りが大きかったことは結果が全てを物語っている。しかも、広島相手にも6月15日の交流戦で対戦、5回を3安打無失点で11奪三振をマークし、白星も挙げている。

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ソフトバンクの一抹の不安とは