性感染症の中で、最も罹患者の多いクラミジア感染症。クラミジアは、感染した人の精液や膣分泌液が、性器や泌尿器、肛門、口腔に接触することで感染します。女性の場合、おりものの増加、不正出血、下腹部の痛みや性交渉時の痛みなどの症状が見られ、男性の場合、排尿時の軽い痛みや尿道のむず痒さを自覚します。けれども、男女ともに無症状のことが多く、特に女性の90%以上は無症状であると言われています。

 感染したことに気がつかないと、どうなるのでしょうか。無治療のまま放置されてしまうと、結果として、慢性感染の状態となります。男性の場合は前立腺炎や精巣上体炎、女性の場合、卵管炎や腹膜炎、子宮外妊娠を引き起こします。性感染症の中でも、特にクラミジアや淋菌は男女ともに不妊の原因になることが知られています。不妊の原因の2割をクラミジア感染症が占めていると推測する研究者もいます。

 少し前の調査ではありますが、日本のクラミジア感染症の実態を示唆する興味深いデータがあります。国立保健医療科学院疫学部の今井博久氏が2001年から02年にかけて行った調査によると、クラミジア感染症の有病率は、女子高校生が13.1%、男子高校生が6.7%であり、18~19歳の女子大学生は13.4%であったといいます。

 私は、性感染症の知識を有する看護師さんを対象に、性感染症の認識や行動の実態について今年の4月にWEBアンケートを行いました。940名から回答を得た結果、性感染症と不妊の関係性の認識率は全体の95%(男性87%、女性96%)と高かったにもかかわらず、性感染症検査の実施経験有りは40%(男性24%、女性41%)と、性感染症検査の実施率は低いことがわかりました。

 実は、性感染症の検査であれば、病院にいかなくても自宅で検査をすることができます。検査キットをインターネットで注文し、自分自身で検体を取って郵送すれば、匿名で検査結果をすぐに知ることができるのです。クラミジアとは違いますが、性感染症の一つである淋菌において自己採取した場合、医師が検査を行った場合に劣らないという報告があります。 もちろん、女性だけでなく、男性も自宅で検査をすることができます。どうしても病院を受診する時間がない人や、病院になかなか行きにくいという人には、お勧めしたいと思います。

 性感染症の究極の予防は、性交渉しないこと。けれでも、人間ですから、そんなことはできませんよね。では、どうすればいいのでしょうか。100%ではありませんが、コンドームを正しく使用することで性感染症に感染する可能性を、高確率で下げることができます。不特定多数の人との性交渉も感染の可能性が高くなるため、信頼できる人以外の人と性交渉を持たないことも重要です。

 自分のカラダは自分で守るしかありません。性感染症は決して他人事ではなく、身近に潜む問題であることを、一人でも多くの方に伝えていきたいと思っています。

◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

著者プロフィールを見る
山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

山本佳奈の記事一覧はこちら