挑発したロペスに言い返す楽天・田中将大 (c)朝日新聞社
挑発したロペスに言い返す楽天・田中将大 (c)朝日新聞社

 長いシーズンを締めくくるプロ野球の日本シリーズがついに本日幕を開ける。そこで今回は、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、日本シリーズで起きた“B級ニュース”を振り返ってもらった。

*  *  *

 当たってもいないのに、“危険球騒動”が起きたのが、2012年の巨人vs日本ハム第5戦(札幌ドーム)。

 5対2とリードの巨人は4回無死一塁で、加藤健が送りバントの構え。これに対し、多田野数人の初球、内角高め139キロ直球が頭部付近をえぐるように襲い、加藤はのけぞるようにして後方に倒れ込んだ。VTRでは当たるどころか、かすってもいなかったが、柳田昌夫球審は死球と判定したばかりでなく、危険球とみなして、多田野に退場を命じた。

 栗山英樹監督がベンチを飛び出し、「バントに行ったのだから、(体に当たっても)空振りでストライクでしょ」と抗議したが、「ヘルメットに当たったから、危険球と判断した」(柳田球審)と判定は変わらず。

 だが、捕手・鶴岡慎也は「ヘルメットに当たった音じゃなかった。柳田さんは最初、ファウルと言ったが、原(辰徳)監督が出て来てから判定が変わった」と証言。ボールを避けようとした際に加藤の引いたバットが自身の頭に当たったようだ。明らかな誤審に、多田野も「騙すほうも騙すほう、騙されるほうも騙されるほう」と不満をあらわにした。

 だが、加藤は騙そうと演技したわけではなかった。過去に2度も頭部死球を受けた経験から、多田野のボールが顔面付近を襲った瞬間、恐怖心がよみがえり、「当たった」と思い込んでしまったのだ。投手の位置と反対側の右頭部を押さえながら、倒れ込んでいるにもかかわらず、柳田球審は頭部死球と判定。誤解がさらなる誤解を生んだ。

 加藤は次の打席では、地元・日ハムファンの怒りの大ブーイングをものともせず、左越えに2点タイムリー二塁打を放つ。阿部慎之助のサブで、出場機会に恵まれなかった控え捕手が、危険球騒動と併せて野球人生で“最も脚光を浴びた”日でもあった。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら
次のページ
“ダブル誤審”に伊東勤監督が大激怒