グラシアルはキューバ代表のサードだ。本職のポジションとはいえ、松田の存在もあって、今季のレギュラーシーズンでは4月29日の1試合、それも試合途中からしか三塁を守っていない。つまり、シーズン中には一度もなかった三塁でのスタメン起用となる。松田のプライド、そしてこの策が功を奏さなかったケースの“ダメージ”を考えると、工藤の「苦渋の決断」は察するにあまりある。

「なかなかここまで勇気がいったのは、そうない。きょうはどうやって勝つか、しっかり考えた」

 情を捨て、勝つことに徹した大胆な決断。工藤は昨年の楽天とのCSファイナルステージでも、同じように“大なた”を振るっていた。くしくも、今回と同じくファイナルステージ第3戦。連敗スタートとなったその流れを変えようと、2番に起用したのはレギュラーシーズンで4安打だった城所龍磨だった。その城所が2本の二塁打を放って勝利に貢献すると、そこから3連勝。アドバンテージの1勝と合わせ、ステージ突破を果たした。それくらい、ドラスチックな手を繰り出さなければ、事は大きく動かないのだ。

 自身初となる中4日での登板となった先発の千賀滉大が、初球から153キロの剛速球を披露。1回、2回と西武打線を三者凡退に打ち取り、4三振を奪う圧巻の立ち上がりを見せると、これに打線が呼応したのが3回だ。1死二、三塁から、2番・上林誠知が西武の左腕・榎田大樹の119キロのカーブを右翼席へ運ぶ1号3ラン。グラシアルの左中間突破の二塁打などでさらに2死一、三塁とすると、6番・中村晃が左前タイムリーを放つなど、打者9人の猛攻で4得点を奪った。

 さらに攻撃の手を緩めず、2番手・十亀剣を攻めたてると、4回は3安打2四球を絡めて3点、5回にはグラシアルの右翼線への適時二塁打など、またも打者9人の猛攻で5点を追加すると、6回には内川が左中間へ1号ソロ。打線が見事につながった上に、工藤が起用した“キーマンたち”が要所で大活躍を見せたのだ。レギュラーシーズンを通しても、ソフトバンクにとっては今季最多、CS史上でも最多タイとなる15得点、西武に11点差をつけての圧勝劇だった。

「選手たちの『絶対負けたくない』という強い思いの表れだと思うし、その結果として表れたことは満足。よくやってくれたと思います」

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