ところが、工藤は代えなかった。加治屋なら、近藤を抑えてくれる。それが信頼の証しでもある。ただ、その“情”が今回は裏目に出た。近藤には4球目の137キロのフォークを捉えられると、右中間を深々と破る二塁打となり、4点目を献上してしまった。続く中田翔にも四球を出し、加治屋の動揺は隠し切れなかった。「自分の甘さ。1球の重みです」。大事な一戦で、点を絶対にやれない場面で、自分が崩れてしまった。

 5番の左打者、オズワルド・アルシアを迎えたところで、工藤は大竹へのスイッチを決めた。近藤の前で交代していれば16球、しかし近藤、中田に投げたことで、加治屋の球数は26球に達していた。この先の戦い、いや、15日の第3戦を睨めば、その“10球分の疲労”を避けるという考え方もできたはずだ。だから“2歩”遅い交代だった。

「コーチの方からも、野手の方からも『明日も試合がある。切り替えて頼むぞ』と言われました。明日、絶対リベンジしたいと思います」

 自分に言い聞かせているかのようだった。そして、もう一度。「明日、リベンジします」と断言口調で、加治屋はそう繰り返した。負けたままで終わるわけにはいかない。のるかそるか、負ければ終わりの第3戦。取り返すチャンスは、幸いにもまだあるのだ。加治屋の反骨心が、ソフトバンクのシリーズ突破への『力』に変わると信じたい。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。