代表戦でも特にアジアカップや最終予選となってくると、そうそう綺麗にゴールを決められるシチュエーションはない。もちろん、そうしたチャンスを多く作り、確実に決めるためにトレーニングから攻撃のクオリティアップを目指すわけだが、高いレベルになるほど紙一重のところで勝負が決まってくる。そこで決まるゴールは綺麗である必要はない。ゴールはゴールなのだ。

 “泥臭いストライカー”という表現がある。一般的に“泥臭い”という言葉は良い表現ではないが、川又が所属するジュビロ磐田のレジェンドである中山雅史や高原直泰、記憶に新しいところでは岡崎慎司といった選手は優れたシュートセンスに加えてゴール前の“泥臭さ”を発揮して日本代表を勝利に導くゴールを挙げてきた。そうした意識はどんなFWでも大事な要素の1つだが、スペシャリティとして全ての選手に求めるのは難しい。だからこそ“泥臭いストライカー”に希少価値があるのだ。

 局面の速さ、動き出しのうまさ、シュートの正確性などでゴールの可能性を高められるFWは少なくないが、そうしたギリギリのところで貪欲にボールを押し込める選手というのは森保ジャパンでも必要になってくるはず。柴崎岳は大きな舞台で結果を残すためには「いろんなタイプの選手が必要」だとロシアで強く感じたという。

「いろんな状況に対して対応できる選手が必要だということをいえば、今の時期からそういった競争状況のある日本代表を作り上げる、最終的にW杯メンバーは23人ですけど、30名ぐらい誰が出ても変わらないようなチームを作り上げる必要がある」

 特にFWにはそれが当てはまる。スタートのメンバーも重要だが、“臨機応変”をテーマにする森保一監督が試合の流れに応じて切れる攻撃のカード。その選択肢に今回の川又のような存在が入っていれば心強い。今回は小林悠、浅野拓磨のケガにより若い北川とともに追加招集された川又がここから11月、さらにアジア・カップ、二次予選と代表に選ばれ続けるかはわからないが、こういう選手の必要性を改めて示してくれていることは間違いない。(文・河治良幸)

●プロフィール
河治良幸
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書は『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)、『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHKスペシャル『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の“天才能”」に監修として参加。8月21日に『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)を刊行。