「サードゴロ……。やっちゃった」と思ったそうだが、なんと、打球を処理しようとしたサード・バティスタとショート・川崎宗則が同時に捕球態勢に入って交錯。2人が倒れ込んで、ボールが転々とする間に全力で一塁ベースを駆け抜ける“珍内野安打”となった。

 試合終盤に同点の走者が出塁。普通なら代走がお約束の場面だが、ロッテはこの時点で内野手を使い果たしていたことから、そのまま初芝が一塁走者に。そして、福浦和也の右前安打で1死一、二塁とチャンスを広げたあと、里崎智也が左越えに二塁打。初芝が同点のホームを踏み、福浦も還って3対2と土壇場で逆転に成功した。

 前述の事情から、そのままサードを守ることになった初芝は、ロッテの31年ぶりV決定の瞬間もグラウンドで迎えることになった。 

 エースだった高校時代は、甲子園目前の東東京大会決勝で敗れ、プロ入り後も「相手の胴上げばかり見ていた」男が、現役生活の最後で初めて手にした“優勝”の2文字。ラッキーな内野安打からの一連の流れは、不思議なめぐり合わせとしか言いようがない。

「野球の神様が最後の最後で17年間頑張ったご褒美をくれたとしか思えませんでした。優勝できて、今までのことが楽しい思い出になった」

 阪神との日本シリーズ第2戦にも代打で出場し、人生初の日本一を手土産にユニホームを脱いだ。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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