夫が仕事だと言ってキャバクラ通いをしているのが許せなくなったという沙織さん(仮名、35歳・主婦)は、

「どうなりたいですか?」

という私の問いに、

「夫がもう少し、家のことを考えてくれたら、とは思いますが、夫の性格上それは難しいのかな、と思います」

とおっしゃいました。これにも、いくつも突っ込みどころがありますが、今回のテーマでいえば、やはり「どうなりたいか」は答えていません。

「どうなりたいのか」はとても重要なポイントです。問題解決は、現状はどうなっていて、どうなりたいのか、というゴールがはっきりしたところで、

・実現を邪魔しているものやメカニズムは何か
・それらを克服するためにどういう手段がありうるか
・どの程度のコスト(時間や労力、耐え続ける苦痛など)がかかるか
・そのコストを払っても解決したいか

と考えていきます。カウンセリング的な問題だけではなく、どんな問題も同じではないかと思います。心理カウンセリングに特別なことがあるとすれば、考える枠組みとして臨床心理学の知見を用いることです。科学やビジネスのことなら多くの人が冷静に判断できても、とても身近な自分や近親者の「こころ」のことになると、わかりにくくなってしまうのです。

 前出の良蔵さんに悪気はないし、一生懸命なのですが、妻の気持ちの問題を家事など業務の負担軽減(モノやこと)で対処しようとしています。冷静に考えれば、それは功を奏さないことは明らかです。

 例えば、「〇〇を買ってあげるから、僕のことを好きになって」ということが実現しないのと同じです。モノ欲しさに付き合ってくれることはあるかもしれませんが、気持ちとして好きになるかどうかは、コントロールできないことです。あるとしたら、モノを買ってくれる=自分を大事してくれている、とつながった場合、好きになることがある「かも」しれないぐらいです。

 良蔵さんの妻のケースだと、家事を引き受けてくれる=自分を大事にしている、とはつながりにくい事情(不倫された)があるので、なかなか厳しいのです。さらにそもそも論でいえば、そういう好意的な感情で、傷ついた感情をカバーしようとすること自体にも無理があります。

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倦怠期のカップルが陥りがちなこと