しかし、こうした学部を新設置するには、国会で喧々囂々の議論をして法律改正を行う必要は全くない。「文部科学省告示」というもので獣医学部の新設が制限されているのだが、これは文部科学大臣が自分の署名だけで、一発で制定・改正できる。国会での議決を得る必要はない。

 それにもかかわらず、歴代の文部科学大臣がその告示を改正することができなかったのはなぜか。日本獣医師政治連盟を守るいわゆる族議員や文部科学省の官僚のすさまじい抵抗に、大臣が負け続けてきたということだ。

 僕はテレビ番組で、文部科学大臣だった馳浩さんと少し議論をしたけれど、「告示はすぐに改正できるはずなのに、なぜやらなかったのか」と聞くと、馳さんは「いろいろな事情がある」と答えた。さらに「事情とは何か」と問うと、「獣医師政治連盟が……」と言葉を濁した。強い働きかけの存在は明らかだ。

 自民党石破茂さんは否定はしているが、日本獣医師政治連盟側からは「石破さんに働きかけをして学部新設が非常に困難になる条件を付けてもらった」という発言が出ている。獣医師政治連盟側には、麻生さんはじめ多くの有力議員が顧問などで関与しているほか、連盟側は与野党を問わず多くの議員の政治資金パーティーのパーティー券を購入したり、議員に寄付をしたりしている。加計学園の獣医学部新設を強烈に批判している国民民主党の玉木雄一郎代表も、獣医師政治連盟側から寄付を受けていた。

 このように獣医師政治連盟側は、自分たちの利益を守るために与野党を問わず、政治家とはがっちり強い関係を結んでいる。そして政治家はその意を汲んで行動する。

 業界団体の既得権を守る規制を打破し、新規参入やイノベーションを促すことは経済成長の柱だ。これまで業界団体とがっちりタッグを組んできた自民党には、業界団体の既得権を打ち破ることは困難。だからこそ、野党にその役割が期待される。安倍政権も規制緩和をアベノミクスの第三の矢と位置付け、獣医学部の新設を成長戦略の一つに据えた。

 業界団体と政治家が築き上げてきた岩盤規制を打ち崩すのは政治の役割だ。これは官僚ではできない。その際、いきなり制度全体を変えるのではなく、一部地域のみ例外を認めるという特区制度を活用して、岩盤規制に風穴を開けることは有効だ。そうであれば、政治側から岩盤規制を打ち砕く方針を行政に指示するのは当然のことだし、改革の主導者たる首相の意向や岩盤規制を守ろうとする関係者への政治的圧力が強くなければ、岩盤規制など打ち破れない。

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「文部科学大臣ができないなら自分でやる」