レコーディング中の一日の実働時間はだいたい3時間。

「夕方になる前にスタジオを出て、たいがいはみんなで回転寿司に行きます。回転寿司はいいよね。だって、店に入ったらすぐに食べられるから。食べ終わったら、家に帰ってテレビで相撲を観て、レコードを聴いて、翌日はまたスタジオ。毎日楽しいですよ」(甲本)

「うん。楽しい」(真島)

「レコーディングというと、メンバーそれぞれが別のブースで演奏して、後で音を重ねると思っているでしょ? 僕たちはそんなことはしません。みんなで一緒にバーンと一発録り。ライヴと一緒。そりゃあ、別々に演奏したほうが音はきれいに録れますよ。でも、それだと、楽しくない。楽しくないことをやるって、よくないと思うんです」(甲本)

 確かに『レインボーサンダー』の音からは、4人が楽しくロックをやっている空気が感じられる。楽器はドラムスとベースとギター。3つだけ。そこで甲本が歌う。演奏の音数が少ないから、音楽に隙間があるからこそ、歌はくっきりと際立つ。甲本が言葉をはっきりと発音するので、リスナーの脳に歌詞が刺さってくる。

「僕たちは1曲につき1日に1回か2回しか演奏しません。どんなに多くても3回かな。テイクを重ねると、どんどんよくなくなっちゃう。だから、レコードやCDにするのは、たいがいは1テイク目です。少しくらい演奏を失敗しても1テイク目がいい」(真島)

 2人のインタビューはあくまでも自然体。バンドの音楽も自然体。トレンドやマーケットを意識している気配はない。マイペースだからこそ、キャリアを重ねてもまったく純度が失われないのかもしれない。

「同じ曲を何度もやると、飽きちゃうからね。それに、2回目って、1回目にうまくいかなかったところを上手にやろうとするでしょ。カッコつけちゃうでしょ。そうすると、つまらない音になってしまうんですよ。海で泳いでいたつもりなのに、プールで泳いでいるみたいな。そうすると、その曲を自分たちが愛せなくなってくる。やっぱりさ、自分の愛せるもの、好きなものをみんなに届けたいんです」(甲本)

 アルバム『レインボーサンダー』終盤の「三年寝た」は、三年寝た、うっかり、をくり返す。意味はたぶん、ない。でも、間違いなく楽しい。街を歩いていて、ふと気づくと無意識のうちにサビのリフを口ずさんでいる。すれ違う人が心配そうにこちらの顔をのぞき込む。気をつけなくてはいけない。(神舘和典)

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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