たとえば先ほど話した新兵衛と篠の冒頭の場面、「苦労かけたな」というセリフがあるけど岡田さんは「大作さん、このセリフ言わなくてもいいでしょう」と言ってきたんだ。俺は「この一言があると観ている方は分かりやすくなる。でも本当に言えないと思ったら、言わなくていいよ」といった。

 すると彼の中で葛藤があったんでしょうね。本番では、スッというのではなく、かなり間があってから言ったんです。俺は「OK」を出したんだけど、岡田さんと麻生さんが顔を見合わせて「いいんですか?」というわけ。でも人間の会話なんて、たまには喋った後に考えて、間が空くことだってあるんだよ。それより大事なのは、話をしている俳優の表情。このときは麻生さんがとてもいい顔をしていたから、OKを出した。

 撮影だって、一応最初にセッティングはしているけど、まず俳優にやりたいようにやらせてみて、それがよければ、そちらを活かすようにセッティングを全部変える。俺の経験でいえば、役については監督よりも俳優の方がよく考えてるからね。

 俺はキャメラマンとしていろんな監督の現場を見てきたけど、すごい監督というのは思い通りに演出するのではなく、役者が自ら動くよう仕向けるんだ。

 岡田さんとは『追憶』(監督:降旗康男監督、撮影:木村大作/2017年)のときに出会っていて、体の動きが素晴らしかった。次は時代劇をやろうと思った時に、主演は彼でいこくことだけは一番最初に決めていたんだけど、彼も俺のやり方を見ていたから、余分なものをそぎ落とした状態で、瓜生新兵衛としてキャメラの前に立ってくれたよね。

 彼は「オレとセッションするつもりで撮影に臨む」と言ってたみたいで、冒頭のシーンもそうだけど撮影中もどんどんアイデアを出すし、オレもそれをドンドン受け入れる。

 特に殺陣に関しては、彼は格闘技のインストラクターの資格まで持っているし良く訓練していて、彼なりの信念があるんだね。彼が言うには、斬る瞬間が見られがちだけど、本当は斬った後の残心が大事で、そこがしっかりしていないと自分が気持ち悪いと。だから新兵衛の殺陣は、居合のシーンや、身をかがめたり手首を狙ったりする殺陣も全部岡田本人が作ってる。だからとても新しい殺陣になっているし、理にもかなっている。武道の高段者がみても、認められるものになってると思うよ。

 ある俳優さんが「大作さんは私たちを演出していないけど、映画を演出している人だ」とおっしゃて下さって、あの言葉は嬉しかったね。