大坂なおみ (c)朝日新聞社
大坂なおみ (c)朝日新聞社

 いつまでに、グランドスラムで優勝したいなどの目標はあるか――?

 その問いに対し彼女は、「来年!」と即答した。

 当時まだ18歳だった、2016年シーズンの終盤のこと。

「だって、『2年後』とか言ったら、まるで今すぐにでも勝つ力はあるのに、来年にはまだ優勝したくないと思っているようじゃない? 私は、そうではない。可能なかぎり、早く優勝したいと思っているんだもの」

 来年……の言葉を構築する成分を、彼女はそう説明する。

 果たしてこの時に挙げた「2年後」とは、単に何気なく口にした数字だったか、あるいは、何かしらの予感や手応えがあってのことだったろうか。

 いずれにしても、あの時からまさに2年後、彼女は初のグランドスラムタイトルをその手につかみ取ってみせた。しかも、「最初のグランドスラムはあそこで取りたい」と言っていたUSオープンで、幼い頃から「決勝を戦うのはこの人」と夢見続けてきた、セリーナ・ウィリアムズを破ってである。

 時速200kmに迫る超高速サーブに、16歳でのツアーデビュー戦にして、対戦相手に「あんなに速いフォアのストロークは見たことがない」と言わせしめた強打――。

 大坂なおみは、テニス界の表舞台に飛び出してきたその時から、既に特別な存在であった。2016年1月の全豪オープンでグランドスラムデビューを果たした大坂は、いきなりシード選手を破り3回戦にまで勝ち進む。ただその後は、3回戦の壁を打ち破ることができなかった。その彼女がついに今年1月の全豪オープンでベスト16に勝ち進むと、3月にはグランドスラムに次ぐ格付けのBNPパリバオープンで、一気に頂点まで駆け上がる。その急激な開花は驚きをもって受け止めらたが、彼女の潜在能力をかねてより知る者たちの間では、むしろ、予想より時間が掛かったと見られたほどだった。

 “心・技・体”が、優れたアスリートを構築する3本柱とはよく言われるが、大坂の急成長も、それぞれに異なる成長曲線を描いてきた三要素が、今このタイミングで重なったために起きたと言えるだろう。

 “心”の変化は、やはり今季から新コーチに就任したサーシャ・バインの功績が大きい。セリーナ・ウィリムズやビクトリア・アザレンカ、さらにはキャロライン・ウォズニアッキら世界1位のヒッティングパートナーを歴任したバインは、自身が見聞してきた女王たちの帝王学を、未来の女王候補に注ぎ込む。初めて会った時から、大坂の「完璧主義者で、自分を褒めない気質」を嗅ぎ取ったバインは、「同じ物事でも、見る角度により良くも悪くも捕らえることができる。それを良い方向に見る方法」を、新たな教え子に我慢強く説いていった。

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「まだ伸び代が山程ある」