そして、次打者・村田は、カウント1-2からの4球目、見逃せばボールになる149キロを「球児と対戦して、ストレートを想定しない打者はいないでしょ」と迷わずフルスイング。打球は逆転3ランとなって左翼スタンドに突き刺さった。

「まさかやな」(真弓明信監督)

 勝利寸前の土壇場から悪夢の逆転負けを喫した阪神は優勝マジックが消え、中日に逆マジック1が点灯。8回を1失点に抑え、最多勝を狙っていた久保康友の白星も消え、そして、矢野の引退試合も幻と消えた……。

 矢野は「正直言って、最後、(試合中の)グラウンドに立って、皆さまにお別れができればと思った」と残念がりつつも、「これまで球児にはどれだけいい思いをさせてもらったか、どれだけ幸せをもらえたか、誰も文句を言うわけがない」と絶妙のフォロー。藤川のみならず、村田も救われたかもしれない。

 これらのB級ニュース史を彩る珍エピソードを残した“ミスター引退試合”が、NPBから離れて引退していくことを、寂しく思ったファンも多かったはず。NPB時代に在籍した巨人、ベイスターズナインとともに、思い出のグラウンドでフィナーレを飾ることができるのは、両チーム関係者の“ナイスプレー”と言えるだろう。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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