■吉田輝星は何げないプレーも大切にしてほしい

-吉田投手のピッチングは素晴らしかったですが、その一方で登板過多ではないかという声もありますが、それについてはいかがですか?

「さすがに大会後半の連投はかわいそうだなと思いましたね。決勝戦も万全な状態で投げさせてあげたかったです。大事なのは、まず日程の問題でしょうね。あとは故障しないためのフォームを作ること。吉田の場合は下半身がしっかりしていて、上半身に負担のかからない投げ方ができていました。だから、あそこまで投げられたというのはあると思います。他に心配になるのは一気に注目されたことで、今までの取り組む姿勢を忘れてしまうこと。(宮崎県選抜との)壮行試合でピッチャーゴロを処理したときに、一塁へ少し適当に投げたんですよ。甲子園ではああいうプレーはなかった。何げないプレーでもしっかりステップをして投げないといけないです。そういうところは気をつけてもらいたいですね」

-金足農、吉田投手以外に今大会で気になったことはありましたか?

「やっぱり大阪桐蔭ですね。特に野手。高校生であれだけしっかりスイングの形ができていて強く振れる選手が揃っているということは本当に珍しいです」

-藤原恭大選手、根尾昂選手などは1位指名でプロ入りすると思いますが、彼らがプロに入ってから活躍するためのポイントはどのあたりになりますか?

「まずはキャンプまでにしっかり体力作りをできるかが最初のポイントですね。高校から入った選手は特に一回状態が落ちるんですよ。その時に二軍に落とされたりして精神的にも下がると、故障に繋がったりする。誰しもが通る道ですが、まずは一年間試合に出られるように高校野球を引退した後もしっかり取り組んでいかないといけないでしょうね」

-仮に八重樫さんが高校野球の監督をされるとなれば、どのように指導しようという考えなどがあれば聞かせてください。

「正直(高校野球の監督を)やりたいと思ったことはないんですけどね(笑)ただ、やるとしたらまずはしっかり体を作ること。特に走ることは重点的にやりますね。長くプレーできる選手はみんなしっかり走れる選手ですから。あとは体力も技術も基本的なことをしっかり身につける。その時に勝てなくても、細かいことは後から練習できますから。選手の先のことを考えてやりたいとは思いますね」

 自らも東北に対する愛着が強いと語った八重樫氏。その言葉通り、今大会の金足農の準優勝と近年の東北勢の躍進に対してはやはり口調も滑らかだった。また何げないプレーから野球に取り組む姿勢に疑問を感じるところも、長年多くの選手を見てきた経験から来るものであろう。

 現在の2年生には佐々木朗希(大船渡)という超高校級の投手も控えており、東北から逸材が輩出される流れは続いている。八重樫氏も楽しみと語る「大旗の白河越え」もそう遠くない将来、達成される可能性は高いだろう。(文・西尾典文)

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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