ファンのみなさんの間に喪失感はもちろんあると思いますが、僕は、いつかもし安室ちゃんがもう一回歌いたいって思ったときに舞台は用意しておきたいなと思うんです。もちろん、引退=もうステージには上がらないということですが、もし仮にそういう瞬間があったとき、ファンの愛が変わらず、むしろ育っていたりしたらこれもまた前代未聞です。

 引退で安室奈美恵のストーリーが終わるわけじゃない。ビートルズのように語り継いで、引き継がれていく。僕はそう受け止めようと思っています。

――ファンの中に生き続け、伝説になっていく……、というわけですね。

 表現する方たちや安室ちゃんのライバル、先輩、後輩にも絶対的な影響を与えるはずですし、けしかけなくても自然と伝説になっていくんだと思います。きっとこれから5年、10年経つと、安室奈美恵の引退前と後が比較されるような音楽シーン全体のターニングポイントに、2017年から既に入っていると思っています。

 そして、安室奈美恵ぐらい日本中、アジア中、世界中に影響を与えるような生き方やアプローチが2018年以降の音楽シーンに実現するのか。そういう才能に気づける土壌や人材が音楽業界にあるのか。25年間共に生きられる潜在能力を持ったファンが、いまの若い世代にどれだけいるのか。僕が15、16歳ごろにテレビで安室ちゃんを見て「ずっと一緒に生きていく」と運命のように思った感覚を、持たせる人と持てる人がどれだけいるのか。

――音楽が求心力を持ち続けるものであるのかという、すごく大きな課題ですね。

「いち音楽ファンとして、みなさんの素晴らしい毎日の中に素晴らしい音楽が常に溢れるように心からそう願っています。これからも素晴らしい音楽とたくさんたくさんぜひ出会ってください」と、ラストツアーの最後のMCで彼女は言い残しました。それがすごく深い言葉になっていくと思います。

 それに応えられる音楽シーンやリスナーやアーティストがつくりえるのか。安室ちゃんが引退するまで1ヶ月を切ってから、僕はすごく捜し始めていますね。爆発力のある、誰にも気づかれていない、すごい衝撃を与えるような人、そういう未来を描ける種や芽を持った人をすごく捜すようになりました。たくさん出会える環境や状況を作るのは僕たちのような仕事をしてる人間だと思うし、一音楽ファンとしてもそう思っています。

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「もうちょっといたかった」と思わせる音楽シーンを