稽古する稀勢の里(左) (c)朝日新聞社
稽古する稀勢の里(左) (c)朝日新聞社

 9月9日から始まった大相撲秋場所で、横綱・稀勢の里が進退をかけた土俵に上がる。劇的な新横綱優勝を遂げた昨年3月の春場所後、15日間皆勤は1場所もなく、全休が4場所、途中休場が4場所。連続8場所休場は貴乃花の7場所を抜いて最多となる。

 不振のきっかけは、新横綱場所で負った左大胸筋と左上腕二頭筋の負傷だ。それ以来、左おっつけの威力が半減。器用なタイプではなく、当たってまっすぐ前に出る、愚直な相撲が持ち味の横綱だけに、大きな武器を奪われた代償は大きく、もがき苦しんだ。

 さらに、昨年名古屋場所では左足首を負傷し、九州場所前には腰痛にも見舞われ、再起のきっかけもつかめないまま1年半が過ぎた。今年夏場所、連続7場所となる全休を決断した時には、横綱審議委員の北村正任委員長が、「次に出てくるときはしっかり自分を整え、自信を持って出てきてほしい」と明言。それからさらに1場所の休場を経て出てくる今場所は、結果を残せなければ、休場ではなく引退という決断をすると予想される。

 横綱は番付が落ちることがない代わりに、常に優勝争いに絡むことが求められ、不振が続けば引退を余儀なくされる地位とされる。そんななか、先輩横綱たちも稀勢の里と同じく、進退をかけた崖っぷちの土俵に挑み、さまざまなドラマを生んできた。

 柏戸は横綱昇進後、ライバル大鵬に大きな差をつけられ、4場所連続休養して瀬戸際に追い込まれた場所で、大鵬との千秋楽全勝決戦を制し、16場所ぶりに涙の復活優勝を遂げた。「憎らしいほど強い」と言われた北の湖はかつての強さに陰りが見られるなか、両国新国技館建設まではと奮戦し、復活の全勝優勝を果たした。貴乃花はヒザの大ケガを乗り越えての奇跡の優勝の後、7場所連続全休を経た再起の土俵で、武蔵丸との相星決戦にまでこぎつけた。そんな横綱たちと並んで印象に残るのが、どん底から這い上がろうと奮戦した大乃国の姿だ。

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大乃国は一度引退を申し出たが…