ところが、ここ数年、この状況が変わりつつある。私の知る限り、いまだにプライベートでは相方と距離を置いている芸人の方が多数派ではあるが、普段から会話をしたり、仲良くしたりしている芸人も一定数存在する。また、その割合は徐々に増えているような気がする。さまぁ~ず、おぎやはぎなど、コンビ仲の良さを前面に出す芸人が増えてきたことの影響もあるだろう。また、世の中が殺伐としていく中で、芸人に対しても和気あいあいとした空気感を世間が求めているという面もありそうだ。

 阿佐ヶ谷姉妹の2人は、仲が良さそうだが決してベタベタしていない。お互いがビジネスパートナーとしても友人としてもお互いを必要としていて、親しみも感じているのだが、近づきすぎてうんざりしたりするところまでは行かない。距離感が絶妙なのだ。

 美穂は、仕事場でも家でも江里子とずっと一緒にいる状況に疲れを感じることを「江里子過多」と表現する。そういうときにはお互いがそれとなく距離を置いて、1人で過ごす時間を作る。そして再び日常に戻っていくのだ。

 六畳一間が手狭になってきたと感じた2人は引っ越しを決意。しかし、なかなか手頃な物件が見つからず、結局、いま住んでいる部屋の隣にもう1つ部屋を借りて別々に暮らすことになった。ちなみに、サンドウィッチマンもM-1優勝後は別々に暮らし始め、それぞれ結婚もしている。それでも生活を共にしてきた2組の仲良しコンビというイメージは変わらない。

 阿佐ヶ谷姉妹とサンドウィッチマンの2組は、いずれも人柄の良さがそのまま芸人としての面白さに直結しているコンビである。彼ら、彼女らにとっての笑いとは、相方と仲良く暮らしてきた日常の延長線上にあるものなのだ。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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