サンドウィッチマンの伊達みきお(左)と富澤たけし (c)朝日新聞社
サンドウィッチマンの伊達みきお(左)と富澤たけし (c)朝日新聞社

 阿佐ヶ谷姉妹の著書『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎)が話題を呼んでいる。阿佐ヶ谷姉妹は姉の木村江里子と妹の渡辺美穂から成る疑似姉妹コンビ。血のつながりはないものの、顔が似ていることもあって「姉妹」を名乗って活動をしている。この本では、そんな独身40代女性の2人が六畳一間のアパートで共同生活を送っている等身大の日常がつづられている。

 最近ではテレビでもよく目にする売れっ子の2人だが、私生活はつつましい。六畳間にこたつを挟んで布団を2つ並べて寝ている。あるとき、美穂が自分の布団だけをシングルからセミダブルに買い替えたために、江里子の布団を敷くスペースが圧迫されて彼女は不満を感じた。そんなコンビ間のちょっとした小競り合いなどが、淡々とした筆致でユーモラスに描かれている。

「芸人がコンビで共同生活を送っている」という状況は世間でも注目を集めやすい。2007年の『M-1グランプリ』でサンドウィッチマンが優勝を果たした直後にも、彼らがテレビで紹介される際には、2人が一緒に暮らしていることがよく取り上げられていた。

 また、これに類する事例として、2017年に出版されてベストセラーとなったカラテカの矢部太郎によるエッセイ漫画『大家さんと僕』(新潮社)では、アパートの2階に住む矢部と1階で一人暮らしをする大家さんとの交流がテーマとなっていた。「芸人の同居生活」はなぜこれほど人々の興味を引くのだろうか。

 その理由を一言で言うと、人間同士のつながりが薄くなっている時代だからこそ、大の大人が2人で仲良く暮らしているという状況が貴重なものであるように見えるからだ。それがお笑いコンビということであれば、なおさら珍しいものに感じられる。

 お笑いの世界では、数十年前から「コンビ芸人は普段は仲が良くない」というのが定説となっていた。お笑いコンビは仕事で顔を合わせる機会が多いため、プライベートでは気分を切り替えるためになるべく相方には会いたくないと考えるのが一般的だ。そして、ダウンタウンをはじめとして、テレビなどで芸人がこぞって「普段は相方とは一切しゃべらない」「連絡を取らないし、そもそも電話番号も知らない」などと公言していたため、お笑いコンビとはそういうものだと思われてきたのだ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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